ホスピタル・クライシス②

PM 11:45

足元の非常灯しかいていない薄暗い廊下を車椅子に乗って進み、休憩所に向かう 撃山うちやま。今度はリアルゴールドが飲みたくなったのだ。オロナミンCは自動販売機の最上段にあったが、リアルゴールドは一番下の段にあるので、車椅子に座ったままでもボタンに手が届く。



撃山「それにしても、 里仲さとなかの旦那が言ってた通り入院患者の気配が全くねぇ。ニュースじゃどの病院も満床だって言ってるが」


???「もう消灯時間ですよー。病室にお戻りくださーい」



背後から若い女性の声が聞こえた。撃山が車椅子ごと振り返ると、暗い廊下の奥のほうからスラっとした背の高い女性看護師が歩いて来ている。懐中電灯などの明かりは持っていない。



撃山「あー、すまねぇな。どうしても喉が渇いて。ほんの5分で戻るからよ」


看護師「ダメですよー。病室にいなきゃー」


撃山「分かってるよ。すぐ戻るから」



看護師が撃山から10mほどの距離に近づくまで気づかなかった。白衣がところどころドス黒い血で染まってる。看護師からは強い鉄の匂いが漂っており、血がついさっき付着したものであることは明らかだった。



撃山「おい、ねぇちゃん、その血……手術終わりか?」


看護師「はいー。手術してきましたー。この方ですー」



看護師が左手で何かを撃山に向かって投げる。何かは撃山の膝にズシリと着地した。人間の頭だ。そして撃山はこの頭の持ち主に見覚えがある。昼に休憩所で会った里仲だった。



看護師「アナタは足が悪そうですねー。手術しますからー。病室にお戻りくださいー」


撃山「そうか、テメェが殺して回ってるから入院患者が少ねぇのか」


看護師「皆さん無事手術に成功しー。退院していきましたー。この世からの退院ですー」


撃山「ふざけんなぁ!それ以上動くんじゃねぇ!」



撃山は車椅子を後退させながら、左の肘掛けに取り付けたサブマシンガンのグリップを握った。看護師は撃山の命令を聞かず歩き続ける。ピンヒールを履いているのに、足音が一切ない。そして右手には血まみれのメスが握られている。


看護師がまとう殺気から、避けられない戦いの気配を感じ取る撃山。左手で首だけになった里仲の髪をつかみ、後ろに放り投げる。


看護師の歩みが早くなった。同時に撃山は看護師に向かって発砲。ダダダダダッという音とともに弾丸が連射されるが、看護師は飛び上がって全ての弾丸を避け、両足で天井に張り付き、逆さのまま走って撃山との距離を詰める。


メスを逆手に握り直し、天井を蹴って上から撃山に襲いかかる看護師。



撃山「ターボエンジン、オン!」



撃山が右足で車椅子のフットサポートを強く踏む。背もたれに装着されたターボエンジンが火を吹き、その勢いで車椅子が超高速で前進した。廊下に2本のタイヤ痕を残し、看護師の攻撃をかわす。


看護師は着地するのとほぼ同時に方向転換し、撃山を追いかける。背後から急接近する看護師に向かって、撃山は再度ターボエンジンを起動。炎の勢いで5m前進しつつ、看護師の体を 猛火もうかで包んだ。



看護師「んんー。熱いですねー。火傷しちゃいますねー。ひどいことしますねー患者さんー。でも私に手術は不要ですねー。もう死んでいるのでー」


撃山「ってことはこの戦い、俺の得意分野だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る