ホスピタル・クライシス(全3話)

ホスピタル・クライシス①

両足にギプスをつけて車椅子に座る、スキンヘッドに白タンクトップの男・ 撃山 九連うちやま くれん。数々の怪異と戦ってきた猛者だが、今は病院の診察室で初老医師に怒られ中である。



医師「撃山さん、また動いたでしょ?リハビリにはまだ早過ぎます!今は安静にしてないと、いつまでも骨くっつきませんよ?」


撃山 「先生、俺はすぐにでも同僚の体を取り戻さなきゃならねぇんだ。ポコポコの野郎から」


医師「ポコポコだか、チ⚫︎ポコだか知りませんが、医者の言うことは聞いてもらわないと。それから車椅子を勝手に改造しないでください!」


撃山 「へっ、右の肘掛けには 拳銃ベレッタM92F、左の肘掛けには サブマシンガンMP5、背もたれにはターボエンジンを搭載した戦闘用車椅子だ。もう1つ奥の手と言えるギミックがあるが……それは教えられん!先生、乗ってみるか?飛ぶぞ」


医師「いろんな意味でアナタは危険です!完治するまで入院してもらいますからね」


撃山「いや無理だ!俺は一刻も早く同僚を」


医師「ダメです」



こうして撃山は『ヒョウモンダコ大学付属病院』での入院が決まった。



−−−−−−−−−−



病室を出て廊下を30mほど進んだ先にある休憩所。撃山は自動販売機にお金を入れ、オロナミンCを買おうとしていた。しかしボタンが最上段にあり、手が届かない。必死に手を伸ばす撃山の視界の外から、ゴツゴツした太い指が現れ、オロナミンCのボタンを押す。そしてガコンという音とともに落ちてきたビンを拾い上げ、撃山に差し出した。撃山の隣に入院患者の服を着た40代後半くらいの男が立っている。


男は冬眠前の熊のように恰幅が良く、身長は2m近い。撃山も平均的な日本人男性よりは大柄だが、この男のフィジカルエリートっぷりには到底及ばない。



撃山「すまないね」


男「ここは病院。みんな何かに困って来ているはず。助け合ってナンボです」



男はノッシノッシと歩き、自動販売機の隣、撃山の左斜め前にあるソファにドスンと腰掛ける。



撃山「入院して長いのかい?」


男「いえ、まだ4日ほどです。脂肪吸引手術を受けたのですが、それ以来体調が悪くなってしまいましてね。大した効果もなかったし、医師免許を持っていない闇医者ばかりの病院で手術なんて受けるんじゃなかった」


撃山「ちょっと自業自得っぽいけど、良くなるといいな」


男「ありがとうござます。この病院、入院患者がやけに少なくて、話し相手に困っておりました。もしよろしければ、また会ったときにカンバセーションしてくれませんか?」


撃山「もちろんだ。飲み物買うのを手伝ってもらった恩もあるしな。俺は撃山って名前だ」



撃山が右手を差し出す。



男「 里仲さとなかと申します」



里仲も右手を出し、ガッチリと握手をする。体格どおり里中の握力は異様に強い。体調が悪くて入院している患者とは思えない力だ。



撃山「里仲の旦那、かなりのパワーしてるな。何かスポーツでもやってるのか?」


里仲「若い頃、力士をしておりました。横綱にはなれませんでしたが、大関まで上り詰めましてね。今でもそこらのケンカ自慢くらいなら、軽く吹き飛ばせますよ。ははは」


撃山「大関って、めちゃくちゃ強いじゃねーか」


里仲「引退しても食事量が減らせず体が大きいままで、年とともに生活がしにくくなりました。それで痩せようと思い、脂肪吸引をしたのです」


撃山「ああ、そういうこと」



撃山の手を離し、立ち上がる里仲。一礼し、ノッシノッシと重たい足取りで休憩所を後にした。

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