復活のポコポコ様①

フキヤドクガエルビル西側4階。撃山うちやまが放った弾丸が、黒いロングヘアで白い服を着た女性の頭に当たり、肩口まで霧散させた。これで87体目。撃山は1階エントランスで階段を登り始めてから4階に到着するまでの間に大量の幽霊に襲われ続け、今その全てを拳銃ベレッタM92Fで仕留めた。


撃山「邪気ってやつの影響で、幽霊どもが発情期みたいに元気になってやがるのか……マガジンは残り1つ。もう出てくんなよ」


撃山は銃の弾倉だんそうを交換し、5階へと続く階段を駆け上る。


5階は黒い煙が天井を包んでいた。目に見えるほど濃い邪気だ。そして床には巨大な魔法陣が彫り込まれている。魔法陣の中心には、気を失ったまま縄でイスに縛り付けられているブリーフ一丁の服来ふくらい。その隣に黒いローブに身を包んだ白髪の初老男性、最後のターゲット・フォカッチャ。胸を抑えながら若干前屈みになり、苦しそうにしている。


撃山「服来ぃぃっ!てめぇブリーフ派だったのか!?」


フォカッチャ「よ、呼びかけても無駄だ……この者の精神は、すでにほぼ全て、ポコポコ様に侵食されている……多くの信者の願いと、捧げた命によって……それにしても、これほどの邪気とは……」


撃山は拳銃を構える。


撃山「くそっ!服来をるしかねぇのか!?」


フォカッチャ「もう遅いわ!我らが神・ポコポコ様よ!この者を依代よりしろとし、現世に降臨したまえ!」


天井を覆うドス黒い邪気が渦を巻き、服来の体に吸収されていく。すべての邪気が服来の体に取り込まれた。


うな垂れていた服来の頭が上がる。眠たそうな細い目であくびをすると、キョロキョロと辺りを見回した。


フォカッチャ「ポ、ポコポコ様でしょうか……?」


服来(ポコポコ)「……あれ?今、何年?」


フォカッチャ「に、2024年でございます」


ポコポコ「ってことは……オレが最後に除霊されてから1800年くらい経ってるやん。で、自分がよみがえらせてくれたん?」


フォカッチャ「はい、私を含め多くの者たちがポコポコ様の復活を心より望んでおりました。全員で祈り、大量のにえを捧げ、この世にお呼びした次第です」


ポコポコ「そうやったんか。オレ、肉体的に死んで魂だけの存在になったんやけど、その後に一度除霊されてんのよー。で、魂の力もほとんど失ってもうて。それから何度か現世に呼び出されたけど、10秒もとどまれられへんねんな。除霊ってホンマきついで」


フォカッチャ「存じ上げております。ゆえにポコポコ様が現世に留まるための依代となる人間を用意しました」


ポコポコ「オレの邪気に耐えられる人間、よー見つけたなぁ。ありがとう。とりあえずこのロープほどいてくれるかぁ?」


フォカッチャはポコポコの体を縛り付けているロープを全て解いた。その場で立ち上がり、首を左右に倒してポキポキと鳴らすポコポコ。撃山は2人を睨みつけながら銃を握る手に力を入れる。


ポコポコ「久しぶりのシャバってやつやね。ほんまありがとう。ここまでやってくれたってことは、オレらもう友達よな?」


フォカッチャ「そんなわけがございません!私はポコポコ様の従者じゅうしゃでございます」


ポコポコ「なんでよー?ええやん友達で!そんなかしこまらんとさぁ、タメ口で話そうや」


フォカッチャ「そんな恐れ多い」


ポコポコ「あれやろ?オレを蘇らせたのは、楽に幽霊になってあらゆる不安から解放されたいからやろ?」


フォカッチャ「……はい。私も、他の従者たちも望んでおります」


ポコポコ「ほんなら交換条件やな。オレと友達になってくれたら、幽霊にしたるわ。オレずっと友達おらんくてな。邪気が強すぎて、みんな死んでまうねん」


フォカッチャ「……わ、分かりました」


ポコポコ「なんで『ました』付けんねん!『分かった』でええて!」


フォカッチャ「わ、分かった」


ポコポコ「おお〜友達っぽくなったやん!じゃあ、趣味なに?」


フォカッチャ「ええと……ワンダーフォーゲルかな……」


ポコポコ「なんやそれ!オレが生きてた時代になかったもんちゃうん?今度教えてや!……ってオレにも質問せんかい!友達やねんから!心の距離を縮めようや!」


フォカッチャ「ポ、ポコポコは趣味あるの?」


ポコポコ「……はぁ?ポコポコ?なに呼び捨てしとんねん」


フォカッチャ「えっ……でも……」


ポコポコ「タメ口と呼び捨てはちゃうやろ。『様』は付ける必要なくても『さん』か『くん』は付けようや。お前いくつや?」


フォカッチャ「62歳です……」


ポコポコ「オレのほうが何十倍も年上やん。だったら『さん』付けすんのが普通やろぉッ!」


ポコポコの体から一気にドス黒い邪気が噴き出し、再びフロアの天井を覆う。邪気に気圧されるまま、土下座の体勢をとるフォカッチャ。


フォカッチャ「た、大変失礼しました!もちろん不快にさせるつもりはなく……」


ポコポコ「なんか全然噛み合ってへんな、オレら。おい、そこのスキンヘッドの兄ちゃん、見てたよなぁ?オレらのやり取り」


ポコポコが撃山のほうに視線を向ける。


ポコポコ「コイツの距離の詰め方おかしかったよなぁッ!?」


撃山「いやぁ、まぁ、うん……そうかも」


地面にひたいを擦りつけるフォカッチャの後頭部に右足を乗せるポコポコ。


ポコポコ「ほら、あのスキンヘッドもおかしい言うとる。お前友達作るの下手過ぎやろぉッ!」


フォカッチャ「そんな!も、もう一度チャン」


ポコポコの頭が5倍以上に膨らむ。そしてアナコンダのように大きく口を開け、フォカッチャを丸呑みにし、元のサイズへ戻った。


フォカッチャ「ん〜あんま旨くもないし、どこに存在価値があったんやこのおいぼれ。ほんまみじめやで」


撃山「何が神・ポコポコ様だ……人を虫ケラみたいに殺す死神じゃねーか!」

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