空手家キョウイチ VS ゴリラな背後霊

猿井さるいはシゲミと田代たしろに向かって軽く会釈する。


猿井「初めまして、ポコポコ教にあだなすフナムシども。猿井と申します。現在35歳、独身、O型、長野県出身、好きな食べ物は冷しゃぶパスタ」


田代「ここは拙者に預けて、シゲミ殿は爆弾の設置を」


腰に帯びた刀のつかを右手で握る田代。


猿井「そう殺気立たないでください。私はみなし残業代込みで月収20万、手取り18万で働く営業職のサラリーマン。学生時代は陸上部で長距離選手。格闘技や武道の経験無し。だから刀なんて使わなくても簡単に殺せますよ。私はね・・・


猿井の背後、空間を切り裂くように漆黒の毛が大量に現れる。毛は大型のゴリラへと変貌した。体長は2m以上で、体重は200kg近いと思われる。


猿井「しかし私の背後霊『ゴリーウホウホ』はそう簡単にはいきませんよ。しかもポコポコ様の邪気の影響で、いつもより興奮している」


🦍「ウホホウッ!ウホホホイッ!」


猿井「コイツとまともに戦いたいなら、全盛期のピーター・アーツを連れて来なさい」


ゴリラは猿井の前に出ると仁王立ちをした。


???「なら自分の出番ですね」


シゲミと田代の背後から若い男の声がした。2人が振り向く。空手の道着を着た若い男が階段を上がってきた。


シゲミ「アナタは確か、うちの高校の……」


???「俺のこと知ってるの?……ってそのブレザー、市目鯖しめさばのじゃん!」


田代「何者だ?何しに来た?」


キョウイチ「俺は市目鯖高校空手部2年のキョウイチっていいます。彼女が変な団体にハマってて、このビルにも出入りしていたから、ここ数日近くで見張っていたんです。そしたらトラックで突っ込んでいくイカれた人たちが見えたので、俺も便乗しようと」


田代「では味方と考えて良いのかな?」


キョウイチ「アナタたちが『この団体を潰しに来た』のなら、目的は一緒です」


シゲミ「田代さん、ここは彼に任せましょう。彼は空手でインターハイを2連覇している達人です」


田代「なるほど。申し分ない実力だな。すまないが頼むぞ。拙者たちは先を急ぐ」


キョウイチ「押忍おす!では早速ハァァァ……ハァッ!」


キョウイチはゴリラ向かってまっすぐ走り、正拳突きを見舞う。ゴリラは両腕を腹の前でクロスさせ、突きを防いだ。キョウイチが作り出した隙を見計らい、シゲミと田代はフロアの向かい側へと走りだす。2人は猿井のすぐ横を突っ切った。


シゲミ「アイツ、妨害してきませんでしたね」


田代「拙者たちの始末は、別フロアで待ち構えている他の幹部に任せるということだろう」


シゲミと田代は階段を登る。自身の渾身の突きを防がれたキョウイチは、バックステップで退がり、ゴリラから5mほど距離をとった。ゴリラは威嚇するように両胸を手のひらでポコポコと叩く。


猿井「良いでしょう。ゴリラと空手家の力比べといこうじゃないですか」


ゴリラは前足を床について四つ足になると、キョウイチに向かって思い切りタックルした。右横に跳ねるようにかわしたキョウイチは、回転しながら右足でゴリラの後頭部に上段蹴りを打ち込む。蹴られた勢いで若干前屈みになるゴリラだったが、すぐに左拳を下から上に振り上げ、キョウイチに反撃を喰らわせた。ゴリラの拳がキョウイチのアゴをかすめる。


ゴリラの攻撃にはどれも、ほんの0.1秒反応が遅れただけで致命傷になるであろうパワーが込められている。


猿井「やりますねぇ。ゴリーウホウホとここまで戦えるヤツは初めてだ。しかし遊びに付き合うほど私たちはヒマではありません……やれぇ!ゴリーウホウホ!」


ゴリラは右腕でキョウイチの顔面目掛けてパンチを打つ。


キョウイチ「押忍っ!」


キョウイチは横に回転しながら左足のかかとでゴリラのパンチを弾く。足に鈍い痛みが走った。かかとの骨にヒビが入ったのだろう。


猿井「なにが『押忍』だこのゾウリムシが!仕留めろ!ゴリーウホウホ!」


🦍「ウホラァァァァッ!」


ゴリラはキョウイチに向かって両の拳を何度も突き出す。


キョウイチ「押忍ぅぅぅぅっ!」


キョウイチも負けじと左右の腕でパンチを交互に打ち出す。高速で動く腕がいくつもの残像を生み、マシンガンで撃ち合っているかのようにゴリラとキョウイチのラッシュがぶつかった。


🦍「ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホォーーーッ!」


キョウイチ「押忍押忍押忍押忍押忍押忍押忍押忍押忍押忍ぅーーーっ!」


猿井「人間がゴリラに勝てるかぁ!?力の差を見せつけろゴリーウホウホぉ!」


互いの拳が相手の体に突き刺さる。パワーではゴリラの方が上。しかし手数ならキョウイチが勝っている。激しいラッシュは双方にダメージを蓄積させていった。


猿井「無駄ぁ!ゴリーウホウホは無敵の背後霊!」


ゴリラのパンチをくらい何度も意識が飛びそうになるキョウイチ。しかし、最愛の彼女・アキのために倒れるわけにはいかない。朦朧とする意識の中、ラッシュを続ける。


キョウイチ「おおおお押忍押忍押忍押忍押忍押忍押忍ぅぅぁぁぁあああーーーっ!」


段々とキョウイチのパンチが一方的にゴリラにヒットするようになる。ラッシュを喰らい続けたゴリラの足はふらつき、頭は前後にガクガクと揺れ、ロクにパンチを出せなくなった。


キョウイチ「押ーーーーーー忍っ!」


キョウイチが右の拳で最後の一発を、指先を動かす力すら無くなったゴリラの顔面にぶち込む。ゴリラは大きく吹き飛び、窓ガラスに突っ込むとそのままビルの外へ落ちていった。


猿井「まさか……ゴリーウホウホが負けただと?我が無敵の背後霊が……」


猿井は膝から床に崩れ落ちる。


猿井「私にはもう戦う手段がない……見事です。空手家の少年よ。少し思い出話をさせてもらって良いかな?私とゴリーウホウホの出会いの話です」


キョウイチ「ダメだ」


キョウイチは駆け足で猿井との距離を詰め、顔面に右膝蹴りを喰らわせる。鼻と口から血を吹き出し、床を滑る猿井。一発でノックアウト。


猿井にトドメを刺したところでキョウイチの体にも限界がやって来た。立っていられなくなり、床に片膝を突くと同時に口から血を吐き、キョウイチはうつ伏せに倒れた。

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