ゴリラな背後霊(全3話)

ゴリラな背後霊①

PM 5:30

東京都内某所

コンクリートが剥き出しになり、窓ガラスのほとんどが割れた、汚い廃ビルの一角に集められた4人の殺し屋。


バトルナイフ三沢みさわ「まさか、ここで殺し合えなんて展開じゃあないよな?まぁ俺は構わないけど。全員、首を掻っ切ってやるよ」


紺色のニット帽を被る小柄の若い男性、通称『バトルナイフ三沢』。300本以上のナイフを保有し、ターゲットを狙う状況に合わせて最適なものを選び刺殺するナイフファイトのプロだ。


ホークアイ潤子じゅんこ「血の気の多い薄らバカが一匹。まだ依頼人から詳細を聞いてないんだから、少しはおとなしくしてなさいよ」


サングラスをかけたポニーテールの女性、通称『ホークアイ潤子』。最長2,200m離れたターゲットの眉間を撃ち抜いたことがある、凄腕のスナイパー。


闇討やみうちヒロシ「そうそう。無駄な争いはやめましょうよ。まぁ、仮に殺し合うことになったとしても、ボクは誰にも負けませんがね」


肩まであるロン毛が特徴的な痩せ型の中年男性、通称『闇討ちヒロシ』。目が非常に良く、暗闇の中でも的確にターゲットを見つけ暗殺する。夜間の戦闘で闇討ちヒロシの右に出る者はいない。


山田やまだ・ザ・ビースト「……どうやら、依頼人のお出ましのようだぜ」


身長195cm、体重135kgの巨漢スキンヘッド、通称『山田・ザ・ビースト』。将来を嘱望しょくぼうされたヘビー級プロボクサーだったが、若くして怪我で引退。以来、殺し屋として拳を振るっている。


4人がいるフロアにつながる古びた階段を、黒いスーツを着て銀縁メガネをかけた男がノートパソコンを脇に抱えながら上がってきた。


男「お集まりいただきありがとうございます。今回の依頼人である我が主人あるじより、詳細をお伝えいたします。オンラインでつながっていますので、皆さまからご質問も可能です」


男は4人に見えるようノートパソコンを開いく。画面には長い白髪をオールバックにした、よわい80は超えているであろう老爺の肩から上が映っている。


老爺「諸君を集めた理由は、ある男の暗殺だ。理由は言えんが、明朝5時までに始末してほしい。手段は問わない。達成した者には、報酬として20億円を支払う」


巨額の報酬を提示され驚きを隠せない4人。この老爺が何者かは4人とも分からないが、それだけの資金力を本当に持っているとしたら、一般人でないことだけは確かだ。


老爺「ターゲットの名は猿井 猛さるい たける。35歳、独身」


画面にターゲット、猿井の顔写真が表示される。日本に3,000万人はいそうな、七三分けの男性だ。


老爺「ごく普通の会社員。住所も勤務先も分かっておる。だから殺すのは容易いと思っていた……先日、元軍人だけで構成した暗殺部隊を2個分隊ぶんたい12名送ったが、全員帰らぬ人となった。そこで、現役で殺しを行い、裏社会でも有名な暗殺のプロであるキミたちにお願いしようと考えたのだ」


闇討ちヒロシ「ちょっと待ってください。この猿井って男、本当にただの会社員なのでしょうか?20億も出せるアナタが命を狙っていて、しかも元軍人12人を返り討ちにできる人間が、ただ会社員をやっているとは思えませんが」


老爺「社会的な肩書きは会社員だ。しかも平社員。だがキミが考えるように、何らかの秘密があるのは間違いないだろう」


バトルナイフ三沢「まぁ実際に見てみりゃ、何者かはある程度分かる」


山田・ザ・ビースト「なぁじいさん、4人で協力して始末した場合、報酬はどうなる?」


老爺「そうだな……20億を5億ずつ分ければ良いだろう。私が払う金額は変わらんし、結果として猿井を始末できるなら協力してもらっても構わん」


山田・ザ・ビースト「だとよ。どうだ、ここは4人で力を合わせないか?何か危険な気配がする」


ホークアイ潤子「あら、体格に見合わず気が小さいのね」


山田・ザ・ビースト「思慮深いと言ってくれるかな?」


闇討ちヒロシ「ボクは反対ですね。キミたちとはここで会ったばかり。協力したところで、大したチームワークは期待できないでしょう」


バトルナイフ三沢「俺も反対。全員個人で活動してる殺し屋で、殺り方もバラバラだ。連携したところで、足の引っ張り合いになるとしか思えない」


ホークアイ潤子「じゃあ協力しないってことで。先に殺ったヤツが20億を総取りね」


山田・ザ・ビースト「そうかよ。どうなっても知らねーぞ」


老爺「では、健闘を祈る」


男はノートパソコンを閉じた。


男「暗殺が完了しましたら、明日朝6時までにこの場所へお越しください。報酬のお支払い手続きを行います」

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