緊急停車④
スーツ「お前……ドア斬れたのかよ!なんで今までやらなかった!?」
田代「そのご婦人に止められてましたし、弁償することになるでしょうから、車両は壊したくなかったのですよ」
スーツの男性は立ち上がると、田代の胸ぐらを掴む。
スーツ「ふざけんなよこのハゲェ!お前が早くやらないから俺はあのカルトババアと
田代「やりたくなかったと言ったでしょう?それに死ななかったのだから良かったじゃないですか」
スーツ「テメェ寝ぼけたことを」
???「あれれぇ〜?もう出ちゃうの?まだ試したいことが色々あったのになぁ〜」
突如車内に流れるアナウンス。しかしその声はかなり若い。まだ声変わり途中の中学生男子のようだ。
スーツ「ヒッ!」
スーツの男性は田代の胸ぐらを離すと、青ざめた表情を浮かべながら2歩
田代「
スーツ「ヒィィィィィィッ!」
スーツの男性は田代が斬った扉へと飛び込むように外へ逃げ出した。
女性「あ、あれが……今こそポコポコ様のお力を借りるときよ!さぁ祈りの続きを!あの悪しき存在を追い払うのだ!」
高校生「はい!我が
田代の背後で念仏を唱え始める女性と高校生。「はぁ」とため息をついた田代は、その場で半回転しながら刀を振り抜き、ひざまずく2人の頭上で刃を水平にピタリと止めた。田代が少年のほうへ向き直りながら刀を
田代「信仰心を否定はしない。だが今この場でいくら祈っても無意味。早く失せなよ。さもなくばスキンヘッドの刑だ」
女性&高校生「……し、失礼しましたぁ〜」
女性と高校生は四つん這いで虫のように移動し、田代が斬り開いたドアから外へと逃げ出した。車両には田代と少年の2人だけ。
少年「アンタは逃げないの?チャンスだよ?」
田代「やり残したことがあってね」
少年は運転士の襟首を離す。ドスンという鈍い音を立て、運転士の上半身が床に落ちた。
田代「目的は?」
少年「テストだよ。アンタらを車両に閉じ込めて、外と連絡できないようにしたのは全部テスト。死んで幽霊になった今の俺に何ができて、何ができないのかを確かめるためのね。アンタらは運悪く巻き込まれちゃった被験者ってところかな?」
田代「テスト……?被験者……?」
少年「俺、この線路のすぐ隣にあるマンションに住んでる中学生。学校でいじめられててさ、さっき飛び降り自殺したんだよね。で、線路に落下したんだけど死ねなくて。そんなとき、この電車が俺をひき殺したってわけ」
田代「……」
少年「別に同情なんて求めてないよ。そもそも俺は幽霊になって、いじめてた連中に復讐しようとしてるからね。少し手順は違ったけど、結果としては思い通りになったよ」
田代「それで、キミをいじめてた連中を相手にする前のウォーミングアップとして拙者たちにちょっかいを出したと?」
少年「そうそうそうそう!理解が早くて助かるよ!なんていうか、すごく皮肉なんだけど……こうして一方的に、圧倒的な力で他人を踏みにじってみて、いじめをやるヤツの気持ちがちょっとだけ分かった。正直、楽しいもん」
田代「車掌と運転士を殺す必要はあったのか?」
少年「電車を発進できないようにするための保険としてね。それに俺の最終目標は、いじめてた連中を皆殺しにすること。だから殺しのウォーミングアップも必要だったんだ」
田代は刀の
田代「拙者たちを脅かすだけなら見逃そうと思ったが……他人の命を奪う悪霊ならば、斬る」
少年「ちょうどいい!これもテストだ!幽霊の体に人間の攻撃は通用するのか、試してみよう」
田代「もう少し危機感を持ったほうが良い。すでにキミは、狙う側から狙われる側に変わっている。それに、この刀の一太刀を人間の攻撃と言って良いものか……」
少年「早くしてよー、おじさん……あっ、もっとやりやすいように言ってあげよっか?『早くしろよこのハゲェッ!!』」
田代は体を横に一回転させながら刀を振り抜き、目にも止まらぬ速度で鞘に収めた。田代から10mは離れているはずの少年の体が、左肩から右太ももにかけて大きく裂ける。同じ角度で車両も切断され、車体の上半分が50cmほど
斬り裂かれた少年の体は力無く床に落ち、霧散する。
田代「……しまった斬り過ぎた!この刀、やはり力加減が難しい。これ、弁償いくらになるんだ……?仕方ない、逃げるか」
<緊急停車-完->
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