悪魔祓い(全3話)
悪魔祓い①
イタリア・トスカーナ
住宅街のとある一軒家の扉を、初老男性が3回ノックした。白髪のオールバックで、黒いローブに身を包み、右手に革製のトランクを持っている。
扉を開けて出迎えたのは、上下灰色のスウェットを着た、金色の髪が少し薄くなっている長身の男。大きく開いた目の周りはパンダのように真っ黒で、両頬は彫刻刀で削ったように痩せこけている。
男「……エクソシストだな?」
初老「ご連絡いただいた、デルチさんでしょうか?」
男「そうだ。入ってくれ」
男は元気の無い声で応えると、初老男性を部屋の中へ入れ、扉を閉める。そしてリビングへと案内し、中心に置かれたテーブルのイスを引き、座るよう促した。初老男性がイスの足元にトランクを置いて腰掛けると、男はテーブルを挟んで向かい側のイスに座る。
デルチ「ロクなもてなしもできず申し訳ない。気を遣う余裕が無くてな。できればすぐに悪魔
初老「アナタが悪魔に憑依されていることは、ひと目で分かりました。その目のクマに痩せこけた顔……取り憑いた人間を衰弱させるのは悪魔の常套手段だ」
デルチ「食欲は全くわかない、喉は渇くが、どれだけ水を飲んでも渇きが収まらない。そんな生活が、かれこれ1ヶ月続いている……」
初老「このままだと数日以内にアナタは死ぬ。まずは悪魔の狙いが何か、直接会話して聞き出しましょう。悪魔を表に出すことはできますか?」
デルチ「気乗りしないが、やってみよう……うっ、ぬっ……ぬぉわぁぁぁぐぅわぁぁ!」
苦痛の声とともにデルチの表情が歪んだ。眉毛が上下し、白目を剥き、頬骨が出たり引っ込んだりを繰り返す。ぐちゃぐちゃという表現がピッタリだ。
デルチは力無くうな垂れる。直後、スッと正面に向き直った。大きく開いていた目は半開きになり、目の周りのクマが消え、口角が少しだけ上がっている。顔に入っていた余計な力が抜けて、まるで別人のようだ。
デルチ「こんにちは、エクソシストさん。ウェルカムドリンクとして、ドクターペッパーを1缶いかが?冷蔵庫の中に40缶もあるの。なかなか消費できなくて」
声が高くなり、女性のような口調になった。それに、さっきまで「もてなしができる余裕は無い」と言っていたのに、飲み物を振る舞おうとしている。人格が入れ替わっているのは明らか。
初老「結構。ドクターペッパーの薬っぽい味が苦手でね」
デルチ「そういう人もいるわよね。もちろん無理にとは言わない。それはそうと、暑くないかしら?そのローブ、脱いだらどう?」
初老「お構いなく。この下は裸でね。脱ぐわけにはいかんのだ」
デルチ「あらそうだったの。変態エクソシストとは知らず、つい。じゃあクーラーをつけてあげましょう」
初老「……妙に親切な悪魔だな」
デルチ「悪魔……ひどいこと言うわね。アタシではなくこの男、デルチこそが悪魔よ」
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