悪魔祓い②

初老「どういうことだ?貴様の声や言葉遣いは女性そのもの。その身なりに合っていない。さっきの男性こそがデルチさんの主人格であり、貴様のほうが取り憑いた悪魔としか思えんが……」


デルチ「失礼。混乱させてしまったようね。アタシが言った『悪魔』っていうのは一つの例え。この殺し屋・デルチの非情さを『悪魔』と形容したの」


初老「殺し屋……?たしかに、この部屋に入ったときから硝煙の匂いがするので気になっていたが……」


デルチ「金さえもらえれば誰でも銃殺する殺し屋、それがデルチの正体。アタシは先月、このデルチに殺された。しかもターゲットと間違えて殺された無関係の人間。だから取り憑いてやったのよ。コイツを苦しませながら殺して、アタシ自身の無念を晴らすために」


初老「その話、本当か?」


デルチ「本当って言いたいところだけど、残念ながら証明する方法はない。あっ、ややこしいし、コイツと混同されるのは不快だから、アタシのことはレラって呼んでくれる?」


初老「悪魔は名前を知られることを嫌がる。自分から名乗ったということは、貴様は悪魔ではないのか?」


レラ「そうね。アナタたちがはらう悪魔とは違うわ。元人間の怨念……悪魔っていうより、悪霊っていう表現が近いのかも」


初老「悪魔でも悪霊でも、祓うまでのアプローチはさして変わらぬ」


レラ「聖水をぶっかけて、十字架を見せつけながら、聖書でも読むの?そんな方法で、アタシが成仏するとは到底思えないけど」


初老「ふん、ピッチャーで四番打者やってる野球部男子みたいに自信満々だな」


レラ「もし悪魔祓いをするなら、このデルチの魂を祓ってよ。コイツはこれまでに100人以上を手にかけた殺し屋。私を殺した後も反省することなく殺しを続けようとした上に、毎日最低でも4回はマスを掻く下劣な悪人よ。コイツこそ、この世からいなくなるべきじゃないかしら?」


初老「殺人に関しては許されるべきではないが、マス掻きについては何とも言えん。私は1日に6回くらいするし……」


レラ「命を軽く扱ってるのは同じでしょ?だから祓うならコイツを……かっ……くっ……かはぁぁぁっ!」


レラの顔が歪み、初老男性が最初に見たデルチの顔に戻る。


デルチ「クソッ!余計なことを言いやがって!……エクソシストよ、この女の言ったとおり、俺は殺し屋だ。20年以上、殺しを生業にしてきた。しかしこの女が取り憑いてから殺しをする直前になると意識がなくなり、気付くとこの家に帰って来ている。そしてターゲットは生きたまま。そう、この女が俺の意識を乗っ取り、殺しを止めているのだ!」


初老「……なら良いんじゃないの?レラという人格は、アナタの更生に役立っているのでは?」


デルチ「良いものか!殺しができなければ金を稼ぐ手段がなくなり、俺は死ぬ!この女は、俺が生きるための可能性を奪っている!」


初老「いや殺しだけが金を稼ぐ手段ではないと思うけど……う〜ん、まいった……レラ、もう一回出て来てくれるかな?」


デルチ「おい!もうこの女と話すことなど……うぐっ……ダハァァァンッ!」


再びデルチの顔が歪み、レラの顔が現れる。


レラ「言ったでしょ?コイツは生きる資格のないクズ人間なのよ」


初老「たしかに。でもレラ、キミもやり口が陰湿じゃないか?なぶり殺すような真似をして。誰がどう見ても悪霊だ」


レラ「じゃあアタシを祓うっていうの!?ごく普通に生きていただけなのに殺された、哀れなアタシを!?」


初老「ふ〜む、殺し屋に取り憑いた悪霊か。どっちもどっちな気がする」


レラ「見逃してよ!別にいいじゃない霊の一体くらい!むしろ良いことをしたって、アナタが信じる神様も許容してくれるわよ……パハッぬふぁぁぁぁっ!」


レラの顔が、デルチの顔に戻る。


デルチ「ダメだ!この女を祓え!使命を忘れ、情に走った貴様を神は認めなどしない!神に抗った反逆者として……もぐっべっさぁぁぁぁっ!」


レラの顔が現れる。


レラ「この殺人鬼に従ってはダメ!アタシを祓えば、アナタは良心の呵責に一生悩まされることになる!」


初老「う〜ん、とりあえず2人一緒に出てきてもらうことってできる?人格が入れ替わるたびに叫ばれたり、顔がぐにゃぐにゃ動いたりするの、怖い」

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