緊急停車②

緊急停車してから1時間が経過した。しかし、車掌から追加のアナウンスはなく、電車が動き出す気配もない。


女性は再び立ち上がると、非常通報ボタンを押し、マイクに唾を飛ばしながら怒鳴った。



女性「ねぇどうなってるの!?まだ動かないの!?ねぇ何とか言いなさいよ!」



やはりスピーカーから返答はない。



女性「何で?変よこんなの……」


高校生「たしかに、何のアナウンスもなく1時間も放置されるなんて、おかしい気がします」


女性「そうよねぇ!?」


スーツ「ババアに賛同するのはしゃくだが、ここまで音沙汰が無いとさすがに不気味だな。運転士に直接聞いてみるか」



スーツの男性は車両の先頭に向かって歩くと、運転席の扉前で立ち止まり、拳でノックした。しかし中から運転士が出てくる様子はない。



スーツ「無視かよ。これなら歩いて帰ったほうが早いぜ」



スーツの男性は車両のドアも開けようとするが、人の力で開けられるものではない。



高校生「他の車両はどうなってるんでしょう?ボクらと同じように困ってる人がいるかも」



高校生は車両後方の連結部へ向かい扉を開けようとする。しかし、びくともしない。車両のドアが人力で開かないのは当然だが、連結部の扉が開かないのはやはりおかしい。高校生に代わってスーツの男性も扉を開けようとするが、やはり1ミリも動かない。



スーツ「どうなってる……?」


高校生「ま、まさか……本当に閉じ込められた!?」


女性「何かの冗談よ……ドッキリ!そうドッキリよ!ドッキリ番組の収録か何かに違いない!」


スーツ「芸能人ならまだしも、俺らみたいな一般人にドッキリ仕掛けても視聴率稼げねーだろ。鉄道会社でトラブルが起きてるんだよ」


高校生「ボクたちからも警察とか、消防とかに連絡したほうがいいんでしょうか?」


女性「そんなこと、とっくに私がやろうとしたわ!でもここ、圏外なのよ!」


スーツ「都会のど真ん中で圏外なんて、ありえねーぞ……」



困惑する3人をよそに、田代は座ったまま目を瞑っている。そんな田代の冷静さを頼もしく感じたのか、高校生が近づき隣に座った。



高校生「あの、かまいたち戦いニキ……アナタならこの状況について何か分かるんじゃないですか?怪異と戦ったことのあるアナタなら」


田代「はっきり言おう。何も分からん」


高校生「使えねぇ!」


田代「だがこの刀が騒いでいる。そういうときは決まって、この世ならざる者が近くにいる」



田代は袋から刀を取り出す。



高校生「じゃあ電車から出られないのは怪異の……」


女性「あーっ!刀出した!何もしないって言ってたのに!」



少し離れた場所から女性が田代を怒鳴りつける。



田代「まださやからは抜いてませんよ。それに、斬るとしてもアナタ方ではありませんので」


スーツ「じゃあ何を斬るんだ?」


田代「……」



直後、天井の蛍光灯が明滅し、車体が大きく揺れ始めた。女性とスーツの男性は、立っていられずしゃがみ込む。



高校生「地震!?」


女性「もうどうなってんのよ!」


スーツ「やっぱり只事じゃねーぞこれ!」



明滅と揺れは1分ほどで収まった。車内が静寂に包まれる。そんな静寂を壊すかのように、連結部の扉が開いた。車両に制服を着た男性が入ってくる。本来なら電車の最後尾にいるはずの車掌だ。


車掌は4人のほうを見て、両目と口を三日月型に変形させ笑みを向けると、膝からその場に崩れ落ちた。車掌が倒れた床に血溜まりができる。何者かに殺されていた。

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