Dog Owner(全2話)

Dog Owner①

土佐犬のストロベリー(♂・6歳)は、飼い主であり猟師の末田 トシヲまつだ としを(♂・76歳)とともに、ある山へ来ていた。最近この山の生き物が何者かによって次々に殺されており、失踪する登山客の数も急増しているため、近隣住民が末田に調査を依頼したのだ。依頼人によると、何か巨大な獣が山に潜んでいるのではないかとのこと。


末田は数多の猛獣を仕留めてきた腕利きの猟師。しかしそれは遠い昔のこと。今では猟銃を構えると腕が震え、狙いを定めようにも目の焦点が合わない。ウサギ1匹狩ることさえできないだろう。そんな末田がいまだに現役の猟師を続けられているのは、愛犬・ストロベリーのおかげだ。


ストロベリーは末田が徹底的に訓練してきた猟犬。毎日50km以上走り込み、エサと一緒に大量のプロテインを摂取している。体毛の上からでも分かるほど筋肉モリモリだ。ストロベリーはこれまでにヒグマ32頭を末田のサポート無しで仕留めており、最近は末田に代わって狩りをしている。依頼人も末田ではなくストロベリーに期待を寄せて相談したほど。それくらいストロベリーは優秀な猟犬なのだ。


生い茂る草木をかき分け、山中を歩くストロベリーと末田。道中、ストロベリーは強い血の匂いを感じ取った。ストロベリーは末田を匂いのする場所まで案内する。地面にできた血溜まりの中心に雄鹿の頭が落ちていた。しかし体はどこにも見当たらない。傷口からして、この鹿は大きな獣にかじられたようだが、鹿の首を切断するほど巨大なアゴと牙を持つ生き物はまずいない。


別の箇所から漂う血の匂いも感じ取ったストロベリー。今度はヒグマが頭と片足を残して死んでいた。まるで体だけを丸呑みされたかのようだ。こんなことができる生物が地上にいるとしたら……思案するストロベリーと末田。そんな2人のもとに、木々を押し倒しながら巨大な獣がやって来た。体高5mはあろう、老齢の末田でも図鑑でしか見たことがない、茶色い体をした恐竜・ティラノサウルスだ。


体が透けて若干向こう側が見えるティラノサウルスは、小さな目でストロベリーと末田を見下ろす。


末田「なぜ恐竜が……?ワシが親父のキ⚫︎タマにいるよりはるか昔に絶滅しとるはず……」


ストロベリー「グルルルバウワウッ!(何じゃこのデカブツ!偉そうにしくさって!噛み殺したろか!?)」


ストロベリーが吠えた直後、ティラノサウルスはいくつもの爆弾が一斉に爆発したかのような大音量の咆哮を上げる。その咆哮だけで、ストロベリーは相手との格差を感じ取った。生物として圧倒的に格上。食物連鎖の頂点。現存する地上のどの生物でも敵わない、絶対的な捕食者。


末田「コイツが山の生き物や登山者を殺していたに違いない……行け!ストロベリー!喉笛を噛みちぎってやれ!」


末田は木の影に隠れながら、ストロベリーに指示を出す。


ストロベリー「バウワウッ!(無理に決まってるだろこのノータリン!あんな大木みたいな喉を噛み切れるわけがねぇ!)」


ティラノサウルス「グゥゥゥ(犬っころよ、いくら吠えて猛獣の真似事をしようが、所詮貴様は人間に保護されている紛い物の獣。余が生きていた時代なら、貴様など虫ケラにも及ばぬわ)」


ティラノサウルスはもう一度大きな咆哮を上げる。完全に萎縮したストロベリーは後ずさりしながら、オシッコとウ⚫︎コを漏らした。

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