記憶②

苦保「ところで、茄子野くんはなんで刑務所に?」


茄子野「殺人だよ。9人殺した」


苦保「へぇー、9人かぁ。ボクは23人!イェーイ!ボクの勝ちー!」


茄子野「お前ヤバいな!人殺しそうには見えないのに。お前こそ『人は見た目によらない』の典型例だわ」


苦保「あっ、でもここでトイレットペーパーを丸呑みして自殺したから、自分を含めたら24人か。どっちにしてもボクの勝ちだね」


茄子野「殺った人間の数を誇るな!倫理観どうなってんだよ!スジモンの俺のほうがまともじゃねーか!」


苦保「でも、こうして会えないと思っていた同級生に再会できたと思うと、人生って死んだ後でも何があるか分からないものだね」


茄子野「まぁな……ところでさぁ、俺と苦保って中学の頃仲良かったっけ?」


苦保「今さらそれ言う?」


茄子野「マジでゴメン。でも四半世紀も前のことだぜ。普通は忘れちゃうだろ」


苦保「そっかぁ。本当に覚えてないのかぁ……ボクお前にいじめられてたんだよっ!」


突然声を荒げる苦保。茄子野は驚き、口を半開きにしたまま言葉を失う。


苦保「ボクが転校したのは、お前が執拗にいじめてきたことが原因だ。殴る蹴るはもちろん、イスに剣山を置いたり、体操袋の中にキングコブラを仕込んだり、給食の酢豚にパイナップルを入れたり……挙げ句の果てに、ボクと校長先生のBL小説を書いて学校中にばら撒いたよなぁ!?」


茄子野「そ、そうだっけか……?いや全然記憶に無いんだが……」


苦保「当時のボクは弱くて、お前に反撃できず泣き寝入りするしかなかった。でも今は違う。ボクはお前よりも人を大勢殺してきた。お前よりも遥かに強いんだ」


茄子野「何言ってやがる……殺した人間の数で強さなんか決まらねぇよ」


苦保「じゃあ試してみるか?殴ってみろよ!ほら、中学時代を思い出してさ」


茄子野「……そうか、そこまで言うならやってやるよ。テメーも中学時代を思い出し、またいじめられやがれ!ただし、殴りはしない」


立ち上がる茄子野。


茄子野「蹴るんだよ」


茄子野はあぐらをかく苦保の頭に向かってかかと落としを見舞う。しかし茄子野の足は苦保の体をすり抜けた。


苦保「効かないねぇ。ボクは霊体だよ。そんな力のないポ⚫︎チンキックじゃ、何千回蹴ってもボクを捉えることはできない」


苦保も立ち上がる。茄子野は後ずさるが、狭い独房に逃げ場はない。


茄子野「おい看守!ここから出してくれぇ!おい!」


独房の扉を激しく叩く茄子野。しかし看守は来ない。


苦保「出せと言って出られるほど、刑務所は甘くない。さぁ、お前はボクの、25人目の犠牲者になるんだ」


苦保の手が茄子野の首に絡みつき、強く絞める。茄子野は苦保の顔面を殴ろうとするが、やはりすり抜けてしまう。やがて茄子野の呼吸は完全に止まった。茄子野の亡骸が床の上に力なく倒れる。


苦保「やった……ついにやったぞ……おお、神よ。こんな形で復讐の機会をくださるなんて……感謝してもしきれません」


両手を組み、涙を流す苦保。そんな苦保の右肩がトントンと2回叩かれる。苦保が振り向くと、そこには茄子野が立っていた。


苦保「な……茄子野……死んでなかったのか?」


茄子野「いや、確かに死んだぜ」


苦保の足元には茄子野の死体がうつ伏せで倒れている。しかし目の前には確かに茄子野がいる。


茄子野「テメーにお礼をするため、地獄から舞い戻ったんだ。生きてるときは、かかと落としの一つも喰らわせられなかったが、同じ幽霊になった今ならどうなんだろうなぁ……?」


この日以来、無人の独房から男の怒号と別の男の悲鳴が聞こえるようになり、刑務所内で怪談として語られることになった。


<記憶-完->

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