食う者と食わせる者④

千歌の計画は貞春にバレていた。そして千歌の予想通り、貞春は不死の薬を完成させていた。だが、毒薬が入ったサーロインステーキは食べてくれるらしい。一か八かの状況。毒薬が作用しなければ、千歌は殺されるだろう。


貞春は手づかみでサーインステーキを口へ運び、丸呑みにした。


貞春「さて。一体どうなるか、見物……うっ……ぐっ……がはぁっ!」


貞春は両手で首を抑え、床に膝をつき、悶え始めた。言葉を発することさえもできず、ただ口から息が漏れているだけといった様子。誰がどう見ても死にかけ。千歌は思った、「勝った」と。


だが、数秒で貞春は無表情に戻り、立ち上がる。毒薬で絶命させるには至らなかったのだ。貞春を見つめ、死を覚悟する千歌。しかし貞春の口から予想外の言葉が飛び出す。


貞春「千歌……俺は自分の体に不死の薬を投与し、不死身になったんだ。でも食欲が過剰に促進されてしまう副作用を抑えられなかった。ついさっきまでキミを、言葉通り本当に食ってやろうと思っていた。だが、その食欲がおさまった。このサーロインステーキ、いや、キミの毒薬を飲んでから」


貞春の発言は、千歌が状況をイーブンに戻す絶好の機会だった。


千歌「……アナタが毒薬だと思って飲んだのは、私が開発した別の薬……アナタの研究を完成させる、副作用を抑えるための薬。アナタの性格を考えると、自分の体で実験をすると思った。だからわざと殺し屋に狙わせて、アナタの薬と私の薬、両方の効果をテストする機会を作ったの」


貞春「そうだったのか……じゃあ、この状況はキミの計画通り……」


もちろん全て千歌のウソ。貞春に飲ませたのは間違いなく命を奪うための毒薬だった。だが、偶然にも貞春の薬の副作用を抑えるという、想定外の効果を発揮してしまったようだ。千歌のついたウソは穴だらけ。しかし、不死の薬の研究に自身のキャリアを捧げるほど盲目的になっていた貞春は、千歌のウソよりも、薬がより完成に近づいたことに気を取られていた。


千歌「これでアナタの研究は成功ね」


貞春「でもまだ試作段階。本当の意味で成功させるにはキミの力が必要だ。俺はなんて愚かだったのだろう。キミの思いやりに気付かず、殺そうとしていたなんて。心から謝るよ。これからは力を合わせて、研究を進めていこう」


千歌「私の方こそ、こんな回りくどい方法を選んでしまって、ごめんなさい」


2人は強く抱き合う。貞春は幸せそうに目を閉じ、千歌は眉間にシワを寄せ強く歯を食いしばった。


<食う者と食わせる者-完->

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る