ドラキュラ再就職(全2話)
ドラキュラ再就職①
幽霊駆除業者『ワーナー・ゴースト・トラップ 西新宿支店』スタッフ控室。
パイプ椅子に座る、リクルートスーツを着たオールバックの男性・
血吸から2mほど離れ、向かい合うようにパイプ椅子に座っているのは、青いキャップとつなぎを身に付けた細身の中年男性・
どの候補者を採用するか迷っている大端だが、血吸に関しては第一印象と履歴書を見た時点で不採用に決めていた。大端はこれまでに多くの幽霊を駆除してきたプロ。一目見れば、その者が人か人ならざる者かはすぐに分かる。血吸がまとっている気配は人間のそれではないと経験から察した。さらに履歴書の生年月日が1896年から始まっていることも、血吸が人間ではなく、むしろ駆除対象である幽霊に近い存在であることを決定付けている。
血吸「昔から霊感が強くて、幽霊は何度も見てきました!だから幽霊が出ても驚くことはありません!御社の即戦力になれると自負しております!」
霊感が強いというか幽霊でしょ?吸血鬼でしょアナタ?そう言いたくなった大端だが、コンプライアンスが重視される昨今、偏見に塗れた発言は許されない。
大端「それは心強いのですが……前職をお辞めになった理由がその……」
血吸「はい……大変申し上げにくいのですが、『鉄の匂いがして不快だ』なんてクレームをつけてきたお客様がいて口論になり、クビになりました」
「吸血鬼だけに、頭に血が上りやすいとでも言いたいのだろうか?」と思案する大端。しかし迂闊なことを言えば、自分の血が吸われるかもしれない。過去、多くの幽霊を駆除してきた大端だが、これまでに感じたことのない強い寒気に襲われていた。
大端「ですよね……当社の仕事もお客様と直接接することの多いので、そういった揉め事を起こされる方だと続けるのは難しいかなと……」
血吸「ですが、前職の件で懲りましたから、もうお客様と揉めることはありません!」
ハキハキと答える血吸。もしこの候補者が吸血鬼でなければ採用したのにと、大端は惜しい気持ちになった。コミュニケーション能力が高く前向きで、端正なルックス。客受けが良さそうだ。多少暗い過去があろうと目を瞑ってあげたいところだが、血吸を採用することは「人間に危害を加える怪異を駆除する」というワーナー・ゴースト・トラップの企業理念に大きく背くことになる。
大端「ちなみに、前職で揉めたお客様は、どうなったのでしょうか……?
血吸「貧血になって倒れてしまい、救急車で運ばれました。突然だったので、こっちがビックリしちゃいましたよ、あはははっ!」
そう言いながら笑みを浮かべる血吸。長さ5cmはあろう犬歯が顕になった。自分の血が吸い尽くされ干からびる姿を思い浮かべ、生唾を飲む大端。少し判断を誤れば流血沙汰、いや吸血沙汰になりかねない。
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