ドラキュラ再就職②
大端はこれまでに幽霊の類を数多く駆除してきた。しかしそれらは全て仕掛けた罠によるもので、大端自ら戦った経験はゼロ。もし血吸が不採用になったことに腹を立てて今この場で襲ってきたら、大端に打つ手は無い。この状況そのものが、大端を追い詰めていた。
大端「そ、そそそそうですか……とりあえず面接を続けましょう……趣味はありますか?当社はワークライフバランスを重視しておりまして、社員には充実したプライベートを送ってもらいたいと考えているんです」
血吸「ペットを飼っているので、休日はよく戯れてます!」
大端「ほう、ペットですか。ちなみに何を飼っているんですか?」
血吸「コウモリです!76羽飼ってます!」
「ドラキュラやん!」と口走りそうになった大端。おそらく76羽全て吸血コウモリで、戯れるというのも一緒に夜の街に繰り出して人間の血を吸うことを示唆しているのだろう。大橋の背中を冷たい汗が伝う。
大端「そうですか、すごいですね……では、得意なことと苦手なことを教えていただけますか?」
血吸「特技はどんなところでも眠れることで、苦手なことはそうですね……川を渡ることとニンニク料理を食べることです」
「完全にドラキュラやん!」という言葉が喉元まで込み上げてきた大端。どこでも眠れるということは、棺桶の中でも眠れるのだろう。また「川が渡れない」「ニンニクが苦手」というのも吸血鬼の弱点と共通している。大端の膝の震え始めた。
血吸「大丈夫ですか?震えてますけど、寒くありません?ちょっとお酒でも飲みますか?体が温まりますし、もっと話しやすくなるかも。私、赤ワインならいつも持ち歩いてるんです」
「まごうことなきドラキュラやん!」という声が大端の口の中で反響した。吸血鬼は血の代わりに、色が似ている赤ワインを飲むこともある。膝だけでなく全身の震えが止まらなくなった大端は、この面接を一刻も早く打ち切ることにした。
大端「すみません、もう直接お伝えしますね……血吸さん、あなた吸血鬼ですよね!?」
血吸「……えっ?」
大端「人間の生き血を吸う怪異・ドラキュラですよねと言ってるんです!外見もどことなく伝承のドラキュラっぽいし、アナタの生活や振る舞いもドラキュラそのものだ!」
血吸「な、何を言って……」
大端「当社はアナタのような怪異を駆除することを目的としている会社です!だ、だから採用するわけにはいかないんですよ!今すぐ帰ってください!でなければ……アナタを駆除しますよ!」
血吸「そんな……私、何か失礼なことでもしましたか?」
血吸「アナタの存在そのものが私の気分を害しているんですよ!だから駆除します!もっと分かりやすい言葉で言いましょうか?ブッ殺されてぇのかこの吸血オバケが!」
大端は我慢できず、歯の裏まで出てきていた言葉を全て言い切った。もはやコンプライアンスなんて関係ない。この面接を終わらせたい一心での行動だった。
しかし、大端は気付く。この発言で面接は終わらせられるが、自分の命も終わる可能性があることに。度重なる吸血鬼アピールを受けパニックに陥り、血吸に攻撃する手段が無いことが大端の頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。暴言を吐けば、一方的に殺されてしまうかもしれない。ずっと注意していたはずなのに、やってしまった大端。
血吸「そうですか。そんなことを言いますか。なら仕方ないですね……」
血吸は椅子から立ち上がり、大端に近寄る。
大端「ま、まさか俺の血を……」
血吸「私は真面目に面接を受けていただけなのに……アナタがこの状況を作ったんですよ」
血吸は右手で大端の右肩を掴む。
大端「や、やめろ……やめろぉぉぉぉっ!」
血吸「全部録音してましたので、これを持って出るとこ出ますね」
血吸は左手で、胸ポケットからボイスレコーダー機能がオンになったスマートフォンを取り出す。大端の血の気が引いた。吸血鬼は血を吸うだけではない。
<ドラキュラ再就職-完->
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます