食う者と食わせる者③

貞春「仕事が終わってすぐ病院送りだったから、お腹ぺこぺこだよ。家まで何も食べずに我慢して・・・・・・・・・帰って来たんだ」


千歌「じゃ、じゃあまずご飯にしましょう。あなたが事故に遭ったっていうから、元気付けようと思って、奮発してサーロインステーキを買ったの。しかもA5ランクの和牛よ」


千歌は貞春の手を引いてリビングへ連れ込み、ステーキの前に座らせる。


貞春「ほう。いつも料理なんてしないキミが、今日は珍しいもんだ」


千歌「い、いいじゃないたまには!私の作った料理は食べられないって言うの?」


貞春「いや、実に奇妙だと思ってね……数時間前に俺が病院に運ばれたと聞いているのに、なぜ俺の分の料理を用意しているんだろうか!?ってね」


千歌「ギクッ!ほ、ほら、あなたが退院したって連絡があったから……い、急いで買ってきたの!」


貞春「そうか、それはうれしいね。でもおかしいと思わなかったのかねぇ!?病院に搬送されるほどの怪我を負った俺が、たった数時間で退院しちゃってることが!」


千歌「ギクギクッ!……にゅ、入院せず、早く復帰できるのは良いことでしょ?それに、どれくらいの怪我かなんて、その場にいなかった私が知る由もないじゃない!」


貞春「それもそうだな。しかし、だとしたらさらに妙だ。キミは俺が病院に運ばれたと聞いても、退院したと聞いても、状況把握するための連絡すらよこさずサーロインステーキを買いに行くことを優先したのかね!?」


千歌「ギクギクギクッ!……も、もう!いいじゃない!無事だったんだからそんなこと!さっ、お腹空いてるんでしょ?早く食べて食べて!」


貞春「ああ。でもこの空腹、サーロインステーキではおさまりそうにない……そう、キミを食べないことには・・・・・・・・・・・


貞春は立ち上がり、千歌に接近する。近寄る貞春の両肩を腕で押し返し距離を置く千歌。


千歌「もうアナタったらエッチ!車にひかれて、性欲の抑制が効かなくなっちゃったの?このドスケベ!私はメインディッシュ!前菜として、まずそのサーロインステーキを食・べ・て」


千歌の言い訳はかなり苦しい。だが、貞春に早く毒薬を飲ませないことには、千歌の心は休まらない。


貞春「そんなにこのサーロインステーキを、俺に食べさせたいのかい?」


千歌「え、ええ!高かったんだから!」


貞春「そんなこと言って。値段は関係ないんだろう?例えば、これは俺の憶測に過ぎないが、このサーロインステーキにキミの得意分野である毒薬が仕込んであるとしたら、早く俺に食べて欲しいよなぁ!?死んでもらうためにっ!!」


千歌「ギクギクギクビクゥッ!」


貞春「だが面白い。これも実験だ。俺が開発した不死の薬に、キミが開発した毒薬が効くのかどうか試してみようじゃないか」

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