廃村暗殺②

シゲミ「……爺さん、それに女将、アナタたち何者?生きた人間じゃないみたいね」


村長「ほう……気付きなさったか。ご明察。ワシらは、ただアナタ方に挨拶に来たわけではありません。この村に一生、骨をうずめてもらうために来たのです」


まるで地震が起きたかのように旅館が大きく震え始めた。部屋の照明が明滅し、壁や床から白い着物を着た男女の幽霊が無数に湧き出る。


カズヒロ「なんだよおい〜!」


サエ「まさかここ、幽霊旅館!?」


トシキ「そ、そんな〜!」


村長「みんな寂しがっている。新しい仲間を欲しがっている。アナタたちはここで彼らと一緒に過ごすのです」


シゲミは幽霊が湧き出る部屋の中を全速力で突っ切ると、窓際にあったテーブルを持ち上げ、窓ガラスに叩きつけた。ガシャンという大きな音を立て、窓ガラスが割れる。


シゲミ「みんなここから出て!大丈夫、2階から飛び降りても死にはしないから」


トシキ「で、でも……」


シゲミ「早く!」


シゲミの指示に従い、這いずる幽霊を避けながら窓際まで走るカズヒロ、サエ、トシキ。シゲミが割った窓から次々に外へ飛び降りる。


村長「ほっほっほっ、無駄なことを」


シゲミ「どうかしら?」


シゲミは3人に続いて窓から飛び出し、落下しながら右手に握った黒い円筒形のボタンを押す。旅館の至る所から爆炎が上がった。外に向かって炎が吹き出す旅館から距離を取る4人。


サエ「もしかしてシゲミ……」


シゲミ「あの旅館、最初から変な気配がしてたから、念のため仕掛けておいたの。C-4」


カズヒロ「マジかよ〜!やるならそう言っておいてくれよ〜」


トシキ「シゲミちゃんの貴重な爆破シーン、カメラで撮っておけば良かったなぁ」


旅館が炎に包まれる。これで旅館にいた幽霊は全て成仏するだろう。しかし、事態は収まらなかった。旅館の周りにある民家や雑貨店からも白い服を着た男女の幽霊が大量に道に這い出てきて、シゲミたちに近寄る。


燃え盛る旅館の入口から、村長と女将が出てきた。


村長「だから無駄だと言ったのに。この旅館を吹き飛ばしたところで、どうにかなる状況ではない」


トシキ「ま、まさか、村人全員が幽霊……?」


カズヒロ「ここは……ゴーストビレッジか!?」


村長「数年前、この村は巨大なサメの幽霊に襲われましてな。村民は全員食い殺され、ご覧の通り幽霊になってしまった」


ゾロゾロとシゲミたちに接近する無数の幽霊。その中には、白いふんどし一丁で重機関銃ガトリングガンを持つ筋肉モリモリな男の姿もあった。


シゲミ「まずい!」


男の幽霊はガトリングガンを撃ちまくる。幽霊の群れをかいくぐりながら、弾丸を避けるために家屋の影に隠れるシゲミたち。


サエ「ヤ、ヤバいよ!どうするの!?」


カズヒロ「クソぉ〜!シゲミ、なんとかできないのか〜!?」


シゲミ「残りのC-4は旅館の中だし、そもそも私が持ってきた量じゃ、建物一つ吹き飛ばすのが限界」


サエ「そんな!シゲミでも打つ手がないなんて……わ、私たちはここで死ぬんだ……!」


シゲミ「……トシキくん、この村の近くに防空壕があるって言ってたよね?どこだか分かる?」


トシキ「あ、うん。ここから北東にある山の中。少し距離はあるけど、10分もあれば着けると思うよ!」


シゲミ「……なら、なんとかなるかも。とにかくここから避難しよう」


ガトリングガンの弾が飛び交い、幽霊が無尽蔵に湧き出る村を走り抜けるシゲミたち。村を出て、木々が生い茂る山中を裸足のまま突っ切り、防空壕にたどり着いた。一見するとただの洞窟だが、作りはしっかりしている。幽霊たちの足は遅く、追いついて来ていない。


サエ「もしかして、防空壕の中に隠れてやり過ごすの?あの幽霊たちがどっか行くまで?」


シゲミ「まさか」


シゲミは浴衣のポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかけた。


シゲミ「もしもし、ババ上・・・?ちょっと厄介ごとに巻き込まれて、助けてほしい。場所はY県の鮫神村というところ。……うん、そう。お願い」


シゲミは電話を切ると、防空壕の中に入るよう3人に促す。


シゲミ「私の祖母、本当に危険な人だから、しばらくここに避難していよう」

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