廃村暗殺(全3話)
廃村暗殺①
旅館で宿泊手続きを行い、男子部屋と女子部屋に分かれて各々の荷物を置く。その後、男性陣、女性陣それぞれ風呂を済まし、浴衣姿で男子部屋に集まった。8畳ほどの和室で、部屋の真ん中にローテーブルが置かれている。窓際にはガラス製のテーブルとイスが2脚。4人はローテーブルを囲むように座った。
カズヒロ「サエ、お前本当に風呂入ったのかよ〜?メイクしっぱなしじゃ〜ん」
サエ「入った後にもう一回メイクしたの!めんどかったけど」
トシキ「サエはメイクを落とすと完全に別人だって聞いたことあるよ。もしサエが指名手配犯だったら、警察署の前を堂々と歩いても気づかれないだろうって」
サエ「黙れよ!メガネかち割るぞ!女子にはいろいろあるの!」
カズヒロ「でもシゲミは完全にすっぴんだぜ〜」
シゲミ「私はいつも化粧しない派」
サエ「だから女子にはいろいろあるの!」
カズヒロ「まぁ、これ以上女子の秘密に踏み入るのはやめておこうか〜。んじゃ、明日の予定を決めようぜ〜」
サエ「朝チェックアウトしたら、港の海鮮料理屋に行きたい!採れたての魚介類を使ってるから、お寿司もお刺身も美味しいんだって!」
カズヒロ「いいな〜それ!せっかく遠くまで来たんだし、美味いもの食べようぜ〜。飯食って、昼過ぎに廃墟へ向かうか〜。歩いて2時間くらいかかるらしいけど、慣れてない道だからもっとかかるだろうな〜。余裕持って行こうぜ〜」
トシキ「それからボクは、この村の近くにあるっていう防空壕も見てみたい!昔、実際に使われてたものらしい」
カズヒロ「防空壕なんか見てどうするんだよ〜。ただの穴だろ〜?」
トシキ「おいおいおいおいカズヒロ!歴史に敬意を払えよ!戦時中に多くの人の命を救った大切な場所なんだぞ!」
カズヒロ「あ〜分かったよ、俺が悪かった。そうプリプリ怒るなって〜。廃墟に行く前に寄り道するか〜。シゲミはどこか行きたいところある?」
シゲミ「別に」
サエ「シゲミは幽霊さえ爆殺できればいいんでしょ?」
シゲミ「そう」
カズヒロ「じゃあ決まりだな〜。飯食って、防空壕見て、廃墟に行く。ってことで解散〜」
サエ「解散って、まだ夜の9時だよ。寝るには早くない?こういうときってみんなでトランプとかやるものじゃないの?」
トシキ「そうなの?ボクは普段ならもうとっくに寝てる時間だよ」
サエ「トシキ、アンタ本当に高2?今どき幼稚園児でも9時になんて寝ないよ」
カズヒロ「でも明日はかなり歩くぜ〜。しっかり休んで体力をキープしておかないとな〜」
サエ「なんでコイツらジジイみたいなこと言ってんの!?もういい!シゲミ、うちらの部屋帰って恋バナでもしよー!」
立ち上がるサエとシゲミ。ほぼ同じタイミングで、部屋の扉が外からノックされる。サエが扉を開くと、旅館の女将が立っていた。
女将「夜分に申し訳ございません。村長がぜひ皆さまに一言ご挨拶をしたいとのことで」
女将の隣には、小柄な老爺が立っている。頭髪は左右を残して無くなり、長くて白い眉毛と髭で顔のほとんどが隠れている老人だ。
サエ「はぁ……でも私たち、そんな偉い人とかじゃないですけど……」
村長「村外の人がやって来るのは久しぶりでねぇ。居ても立ってもいられなくなり、失礼は承知でここまで来てしまいました」
サエとシゲミの後ろから、カズヒロとトシキが顔を出す。
カズヒロ「ボクら、心霊現象を研究している同好会で〜す!将来絶対に有名になるので、お見知りおきを〜!」
トシキ「お見知りおきを!」
サエ「ちょっと男子!調子乗りすぎぃ!」
村長「ほっほっほっ、元気でいいですのぉ。アナタたちのような若い子がたくさんいれば、この村ももっと活気が出るのですがなぁ」
カズヒロ「あ〜、やっぱ過疎化っすか〜?」
村長「特にこの村は深刻です。若者はみんな都会に行ってしまって、住民の平均年齢は65歳を超えている。村民が増えることもなくて、このままではそう遠くない未来、この村は地図から消えてしまうでしょう」
トシキ「大変な問題ですねぇ……」
村長「少しでもこの村が活気付くよう、ワシら年長者たちもいろんな取り組みをしております。アナタたちのような若者が、この村にずっといたくなるような取り組みを……」
突然、周りの空気が冷たく、そして重くなる。それを感じ取ったのはシゲミだけだった。
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