廃村暗殺(全3話)

廃村暗殺①

市目鯖しめさば高校は夏休みに入った。長期休みを使い、心霊同好会のカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキの4人は東北地方の某県内にある廃墟を目指すことに。元はホテルだったというその廃墟は山の奥深くにあり、日帰りで行ける距離ではない。そこで廃墟近くの鮫神村さめがみむらという漁村にある旅館を拠点に、周辺を観光しながら目的地へ向かうことにした。


旅館で宿泊手続きを行い、男子部屋と女子部屋に分かれて各々の荷物を置く。その後、男性陣、女性陣それぞれ風呂を済まし、浴衣姿で男子部屋に集まった。8畳ほどの和室で、部屋の真ん中にローテーブルが置かれている。窓際にはガラス製のテーブルとイスが2脚。4人はローテーブルを囲むように座った。


カズヒロ「サエ、お前本当に風呂入ったのかよ〜?メイクしっぱなしじゃ〜ん」


サエ「入った後にもう一回メイクしたの!めんどかったけど」


トシキ「サエはメイクを落とすと完全に別人だって聞いたことあるよ。もしサエが指名手配犯だったら、警察署の前を堂々と歩いても気づかれないだろうって」


サエ「黙れよ!メガネかち割るぞ!女子にはいろいろあるの!」


カズヒロ「でもシゲミは完全にすっぴんだぜ〜」


シゲミ「私はいつも化粧しない派」


サエ「だから女子にはいろいろあるの!」


カズヒロ「まぁ、これ以上女子の秘密に踏み入るのはやめておこうか〜。んじゃ、明日の予定を決めようぜ〜」


サエ「朝チェックアウトしたら、港の海鮮料理屋に行きたい!採れたての魚介類を使ってるから、お寿司もお刺身も美味しいんだって!」


カズヒロ「いいな〜それ!せっかく遠くまで来たんだし、美味いもの食べようぜ〜。飯食って、昼過ぎに廃墟へ向かうか〜。歩いて2時間くらいかかるらしいけど、慣れてない道だからもっとかかるだろうな〜。余裕持って行こうぜ〜」


トシキ「それからボクは、この村の近くにあるっていう防空壕も見てみたい!昔、実際に使われてたものらしい」


カズヒロ「防空壕なんか見てどうするんだよ〜。ただの穴だろ〜?」


トシキ「おいおいおいおいカズヒロ!歴史に敬意を払えよ!戦時中に多くの人の命を救った大切な場所なんだぞ!」


カズヒロ「あ〜分かったよ、俺が悪かった。そうプリプリ怒るなって〜。廃墟に行く前に寄り道するか〜。シゲミはどこか行きたいところある?」


シゲミ「別に」


サエ「シゲミは幽霊さえ爆殺できればいいんでしょ?」


シゲミ「そう」


カズヒロ「じゃあ決まりだな〜。飯食って、防空壕見て、廃墟に行く。ってことで解散〜」


サエ「解散って、まだ夜の9時だよ。寝るには早くない?こういうときってみんなでトランプとかやるものじゃないの?」


トシキ「そうなの?ボクは普段ならもうとっくに寝てる時間だよ」


サエ「トシキ、アンタ本当に高2?今どき幼稚園児でも9時になんて寝ないよ」


カズヒロ「でも明日はかなり歩くぜ〜。しっかり休んで体力をキープしておかないとな〜」


サエ「なんでコイツらジジイみたいなこと言ってんの!?もういい!シゲミ、うちらの部屋帰って恋バナでもしよー!」


立ち上がるサエとシゲミ。ほぼ同じタイミングで、部屋の扉が外からノックされる。サエが扉を開くと、旅館の女将が立っていた。


女将「夜分に申し訳ございません。村長がぜひ皆さまに一言ご挨拶をしたいとのことで」


女将の隣には、小柄な老爺が立っている。頭髪は左右を残して無くなり、長くて白い眉毛と髭で顔のほとんどが隠れている老人だ。


サエ「はぁ……でも私たち、そんな偉い人とかじゃないですけど……」


村長「村外の人がやって来るのは久しぶりでねぇ。居ても立ってもいられなくなり、失礼は承知でここまで来てしまいました」


サエとシゲミの後ろから、カズヒロとトシキが顔を出す。


カズヒロ「ボクら、心霊現象を研究している同好会で〜す!将来絶対に有名になるので、お見知りおきを〜!」


トシキ「お見知りおきを!」


サエ「ちょっと男子!調子乗りすぎぃ!」


村長「ほっほっほっ、元気でいいですのぉ。アナタたちのような若い子がたくさんいれば、この村ももっと活気が出るのですがなぁ」


カズヒロ「あ〜、やっぱ過疎化っすか〜?」


村長「特にこの村は深刻です。若者はみんな都会に行ってしまって、住民の平均年齢は65歳を超えている。村民が増えることもなくて、このままではそう遠くない未来、この村は地図から消えてしまうでしょう」


トシキ「大変な問題ですねぇ……」


村長「少しでもこの村が活気付くよう、ワシら年長者たちもいろんな取り組みをしております。アナタたちのような若者が、この村にずっといたくなるような取り組みを……」


突然、周りの空気が冷たく、そして重くなる。それを感じ取ったのはシゲミだけだった。

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