暇人とミイラ②
顔を上げたミイラと目が合う撃山。服来は目の前で起きた惨劇に動揺し、腰を抜かす。騒ぎを遠くで見ていた来場客の悲鳴がホール内に響いた。
撃山は腕にかけたジャケットを放り投げると、右手で拳銃をホルスターから抜き、ミイラに向かって発砲する。
撃山「服来ぃ!お客様を外へ誘導しろぉ!」
服来「で、でも」
撃山「テメーも元警官なら役に立ちやがれ!」
服来は震える足で立ち上がり、「みなさん今すぐ外へ!」と叫びながら来場客を出入口へと誘導し始めた。
撃山が放った弾丸を全て剣で弾くミイラ。構わず発砲を続ける撃山だが、弾かれた弾丸は虚しく床に落下するのみ。ミイラは大きく息を吸い込み、大きな雄叫びを上げた。ホール内にあるガラスが全て砕け散り、撃山は15m以上吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。
撃山「ぐっ……ど、どうなってんだクソぉ!」
弾倉を交換し、再度ミイラに向かって発砲する撃山。その隣から茶色いスーツを着た小太りの中年男性が近づき、引き金を引く撃山の腕を下に押さえつけた。
撃山「危ねーだろ兄ちゃん!下がってろ!」
館長「私はここの責任者です!それに危ないのはアンタだ!拳銃なんか撃って!」
撃山「ミイラが動き出して人を殺してるんだ!拳銃くらい撃つだろ!」
館長「とにかくやめてください!あのミイラがどれだけ貴重か分かってるんですか!?」
撃山「干からびた死体なんて、そこらへん掘れば腐るほど出てくる!」
館長「うちに誘致するために、20億もかけたんですよ!20億!」
撃山「ああそうかい!じゃあさっきアイツに殺されたカップルと家族は何十億ありゃこの世に誘致できんだ!?ああん!?」
表情を歪ませ、口をつぐむ館長。口論しているうちに、ミイラは逃げ遅れた女性客2人を剣で背中から串刺しにした。
撃山「金に目が眩んだ強欲ブタが!人命が最優先に決まってんだろ!テメーと話しているうちに犠牲者が増えちまう!」
ゆっくり歩いて近寄って来るミイラに発砲し続ける撃山。数発がミイラの体に当たったが、怯まない。
撃山「拳銃じゃ威力が足りねぇか!ショットガンでもありゃ……って期待しても無駄だよな、ここ日本だし」
館長は膝から崩れ落ちる。
館長「あああ……1ミクロンも傷付けないようエジプトから神経をすり減らして運搬したのに……」
撃山「運搬?おいブタ野郎!この博物館の展示物はどうやって運搬されて来るんだ?」
館長「海外から飛行機で輸送した後は大型トラックで……そこのスタッフ専用の出入口を抜けた先にある、駐車場で積み下ろししますが……」
館長は十数m離れ場所にある小さな扉を指差す。
撃山「なるほどな」
撃山は背後の壁に備え付けられた消化器を取り外し、床に転がした。消化器はガランガランと鈍い金属音を立てながら、ミイラの足元まで転がる。
撃山「お目覚めのところ悪いが、少し目を瞑っててもらうぞ、クソガリガリ野郎!」
撃山は消化器に2発弾丸を撃ち込んだ。消化器は破裂して、中から白い煙が発生し、ホールに充満する。
煙は十数秒で消え去った。そして撃山もその場から姿を消していた。
館長「あ、あの男!逃げたのか!?責任を逃れるためか!?クソッ!今日は何て日なんだ……犬のウ⚫︎コを踏むわ、妻の不倫が発覚するわ、ミイラが動き出すわ……最悪だ!」
ミイラは館長に狙いを定め、再びゆっくり歩き始めた。2本の剣が床に当たり、ミイラが動くたびにギィィと擦れる音が鳴る。
館長「ま、待ってくれ!私はアナタを大切に扱ってきた!し、知っているだろう!?悪いのはアナタに攻撃をした、あのタンクトップスキンヘッド異常者だ!私が必ずヤツを探し出して引き渡す!だから命だけは!」
ミイラは右腕を大きく振り上げる。そして腕を振り下ろす寸前、客を非難させ終えた服来が館長とミイラの間合いに飛び込み、ミイラに向かって両腕を広げた。ミイラは腕を頭上に伸ばしたままピタリと動きを止める。
服来「に、逃げてください!ここは僕が!」
館長「しかし……」
服来「いいから早く!」
四つん這いで出入口へと向かう館長。服来はじっとミイラを見つめる。ミイラも干からびた瞳で服来を見つめ返した。そして両手の剣を放し、跪く。剣が床に落ちた。
ミイラ「𓅓𓇋 𓅓𓄿𓋴𓏏𓇌𓂋」
ミイラが何か言葉を口にした直後、スタッフ専用出入口が壁ごと大きく崩壊し、6トントラックが勢い良くホールに侵入した。運転しているのは撃山だ。
撃山「
トラックはミイラと衝突。ミイラは体ごと吹き飛ばされ、バラバラになって床に散らばった。撃山はトラックにブレーキをかけることなく、ミイラの体をタイヤで踏み潰す。さらにバックにギアを入れ、トラックを数m下がらせて再度踏み潰し、ドライブにギアを戻しトラックを前に進める。これを6回繰り返し、ミイラを完全に粉々にした。ミイラが立ち上がることはなかった。
撃山はトラックから降り、粉になったミイラを見つめる。
撃山「エジプトの砂漠が恋しいか?日本の砂も悪くねぇぜ。知らんけど」
そうつぶやくと撃山は、口から息をフーフーと吐き、ミイラだった粉を霧散させた。
服来「さっきのは一体……?」
撃山「おい服来、お前あのミイラとしゃべってなかったか?」
服来「何かを言われましたが……もしかして僕が親戚と似てて、間違えたとかじゃないですかね?」
撃山「今度はエジプトの言葉も勉強しとけ」
なぜミイラが復活し、人々に襲いかかったのか、それは分からない、ただ確かなことは、この一件をきっかけに撃山と服来は、民間の警備会社への転職が決まったことだけである。
<暇人とミイラ-完->
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