解剖者の序曲(全2話)

解剖者の序曲①

私は鎌桐かまきり家に代々受け継がれている市松人形。すごく昔に作られたから、自分の名前はもう忘れてちゃった。チャームポイントは赤い着物と黒くて長い髪。元々はショートヘアだったけど、だんだんと髪が伸びて腰くらいまであるロングヘアになっちゃったの。人形なのにね。


どうやら私、自分でもよく分からない力があるみたい。私を乱暴に扱う人を「憎い」と思うと、髪が伸びてその人を締め殺しちゃう。そうやって鎌桐家の人たちを何人も殺しちゃった。だから何度か神社のお焚き上げに出されて焼却されそうになったこともあったけど、その度に神社の神職たちを全員殺して、また鎌桐家に戻ってきた。仕方ないよね、だって殺されかけたんだもん。でもそれが良くなかったみたい。私は「呪いの人形」なんて言われて、鎌桐家の人たちの間でたらい回しにされた。ひどいでしょ?


虐げられているみたいで、ずっと嫌な気持ちだった。けど、今度は鎌桐家の中でもオカルト話が大好きな家族に引き取られることになった。呪われてるなんてレッテルが貼られた私を、むしろ積極的に受け入れてくれたみたい。今日から私は、その家の人形たちと一緒の棚に並べらることになったの。


両親と娘の3人家族で、お父さんは仕事が忙しいらしく、ほとんどの時間を外で過ごしてる。お母さんは去年産まれた娘のお世話をするために、1日中家にいる。娘はまだ立ち上がったり、話したりすることはできない。


この家族は私を好意的に受け入れてくれた。私の新しい居場所。少しでも長くいたい。だから家族をつい絞め殺さないよう、セルフコントロールしなくちゃ!って最初は張り切ってたんだけど……


お母さん「お昼ごはん作ってくるから、ちょっと一人で遊んでてね」


娘にそう言うと、お母さんは棚に並んだ十数体の人形のうち、3つを手に取った。スタイリッシュな外国の女性をモチーフにした人形と、両手にシンバルを持った猿の人形と、男の子の赤ちゃんの人形。それらを娘に渡した。娘は床に座ったまま人形を受け取り、お母さんに幸せそうな笑顔を向けている。


お母さんが部屋を出た直後、私の隣に立っている全身毛むくじゃらで二頭身、ギョロッとした瞳とくちばしに、とがった耳の付いた人形がつぶやいたの。「アイツら、死んだわ」って。「どういうこと?」と私が聞き返すと、その人形、ラービーっていう名前らしんだけど、いろいろと教えてくれた。

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