Dr.Killer②

手術台から離れようとする鎌桐の腕を、男の右手が掴む。


男「ま、待てよ……オレから目を離したら……逃げるかもしれないぞ……いいのか?」


鎌桐「無理だと思います。が、捕らえた獲物を放置したままその場を立ち去るのは、確かに迂闊ですね。ではご要望に応じて、この手術が完了してから夜食を摂ることにしますか……シーフードカップラーメンをね!」


鎌桐はメスで男の左太ももを切り付けた。血がシャワーのように吹き出す。


男「めさぁぁのげらぁぁぁっ!」


鎌桐「太ももには太い血管がたくさん通っています。切れば大量出血し、アナタが失血死するまでのスピードも早くなる」


鎌桐は右手首の腕時計に視線を落とす。


鎌桐「さぁ、そろそろ時間だ。アナタの死は無駄にはなりません。奥さんを喜ばせ、私を悦ばせてくれる」


男「ぬわぁぁぁし、死にたくないぃぃぃ……死にたく……な……などと言うとでも思ったか?」


男は今までの苦悶の表情から一転、無表情に変わる。


鎌桐「……どうなっている?なぜ死なない!?もうとっくに失血死して……」


男「今までのは演技だ。お前の手術、全然痛くなかったよ。そういえば、オレの職業を言ってなかったな。オレは科学者。不死の研究をしている科学者だ」


鎌桐「不死……?」


男「不死になる薬の研究。それがオレの専門分野。ある程度出来上がったのだが、臨床試験の許可がどうしても下りなくてな。やむを得ず、自分の体で試した。研究に自信は持っていたのだが、いざ死ぬとなると怖くて自分ではできなかったのだが……こんな形で実験ができるとは思わなかったよ」


鎌桐「ふ、ふざけるな!ならばこれはどうだ!?生きていられるか!?」


鎌桐は男の小腸を引きずり出し、メスで5カ所切断した。そして小腸の奥にある腎臓2つを体から切り離し、手術室の壁に投げつける。腎臓は壁に当たった衝撃でグチャリと潰れた。


男「……それだけ?他には?」


鎌桐は男の胸を左右1回ずつメスで刺し、肺に穴を開けた。肺が勢いよく萎んでいく。さらに男の睾丸を切除し、床に叩きつけて踏み潰した。男の体と手術台は、イチゴのように血で真っ赤に染まっている。


男「……もう終わりかドクター?ほら、早くしないと今までの労力が無駄になっちまうぞ?薬の効果が出始めているからな」


切断したはずの、心臓から伸びる動脈がつながる。太ももの傷口が塞がる。男の体は徐々に元の状態へと戻りつつあった。鎌桐は目の前のあり得ない光景に驚愕し、腰を抜かす。今まで数百人もの人間を解剖してきたが、こんなことはなかった。


男は手術台から降りて床に立ち、鎌桐を見下ろす。大きく切開された腹部も治りかけていた。


鎌桐「はは……あっはははははっ!素晴らしい!見事!どうでしょう、アナタを見逃します!その代わりに、アナタが開発した不死の薬とやらを私に分けてくれませんか?この薬を患者に投与すれば、何回でも壊せる!新しい患者が来るのを待つ必要もない!」


男「……お前が優勢かのような物言いだな?手術はオレに通用しないんだぞ?ならば、お前は頭を下げる側ではないか?」


鎌桐は両膝を床につき、土下座の姿勢をとる。


鎌桐「お願いします……その薬を分けてください!そしてここで起きたことは、全て無かったことに……」


男「う〜ん……いや、ダメだな。この薬は渡せない。科学者として、こんな失敗作を人に渡すのは癪だ」


鎌桐「失敗作……なぜ!?アナタはどれだけ傷付けられても生きている!成功してるじゃないですか!?」


男「この薬を投与すると、急速に食欲が増進し、目に映る生物全てに食らいつきたくなってしまう。まるでゾンビのように。マウスに投与したら、その個体が同じケージにいたマウスを全て食い殺してしまった」


鎌桐「……つ、つまり……?」


男「オレにも、そのマウスと同じ症状が出ている。だから失敗だ。今、腹が減って、お前を食べたくて仕方がない」


鎌桐「や、やめ……やめて……カップラーメン!シーフードカップラーメンをあげますからぁぁぁぁっ!」


男は鎌桐の首筋に噛み付いた。鎌桐の悲鳴は、遮音性の壁で作られた手術室の外には届かない。


<Dr.Killer-完->

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