Dr.Killer(全2話)

Dr.Killer①

男が目を覚ますと、眩い光の球体が6つ見えた。真上から強い照明で照らされているようだ。そしてベッドのような、何かの台の上で裸のまま仰向けになっている。なぜ自分がこのような状態になっているのか、記憶がはっきりしない。


男は朦朧とする意識の中で、自分が置かれている状況について考えた。おそらく病院の手術室にいるのだろう。徐々に眠る前の記憶も蘇ってきた。仕事が終わって帰宅しようと道を歩いていたら、目の前に包丁を持った見知らぬ男が現れた。そして揉み合いになり、体勢を崩して車道に転がり出た瞬間、自動車が突っ込んできて……


男が記憶をさかのぼっている途中、視界の隅から何者かの顔が現れ、男を覗き込んだ。青いキャップとマスクを付け、緑色の服を着た女性。


鎌桐かまきり「目が覚めたようですね。よく眠れましたか?……と言いたいところですが、気分は最悪でしょう。私は執刀医の鎌桐と申します」


男「ここは……?オレは一体……」


鎌桐「交通事故に遭い、うちの病院に搬送されました。かなりの重傷です」


男「ははは……そう、だったんですね……最悪ですが……助かっただけ良しとしますか……」


鎌桐「助かった?いえ、アナタはこれから死ぬんですよ」


男「……はぁ?」


鎌桐「アナタの奥様からのご依頼です。アナタに多額の保険金をかけていらっしゃるそうだ。本来なら通り魔のフリをした殺し屋に始末させる予定だったそうですが、アナタは奇跡的・・・に交通事故に遭い、難を逃れてしまった。そこで奥様は私に依頼をしてきました。『手術をしたが手遅れだった』というていで殺してほしいと」


男「な、何を言ってるんだ!?……妻がそんなことを」


鎌桐「この手の依頼はよくあるんですよ。そして私は、依頼人にある条件を飲んでもらう代わりに、この病院からの生還が望まれない人間を殺しています」


男「条件……?」


鎌桐「バラバラに壊すことです。私は子どもの頃から、壊すのが大好きでした……最初は人形やぬいぐるみで満足していましたが、もっと複雑なものを壊したくなり、解剖対象が虫、ネズミ、ネコなどに移っていきました。今は人間をバラすことでしか快感を得られません。だから外科医になり、それでも満ち足りず、裏稼業まで始めるようになったのです」


男「く、狂ってやがる……このヤブ医者がぁ!」


鎌桐「お褒めの言葉、ありがとうございます。こうやって患者からは褒められ、依頼人からは感謝され、お金がもらえ、快楽が得られる。これほど充実した仕事があるでしょうか、いやありません。前置きが長くなりました。では術式を始めましょう」


鎌桐は男の腹部の中央でメスを縦一直線に滑らせる。皮膚に血の滲んだ線ができた。


男「がぁはっ!ぐぅ……」


鎌桐「まだメスでちょっと切っただけですよ。こんな程度で声を出されては、先が思いやられますね」


鎌桐はメスで作った傷を、鉤状の器具でグイィと大きく開く。肝臓が顕になった。


鎌桐「ちなみに、この手術室は私しか入れない特別な部屋です。そして壁は全て遮音性。どれだけ叫んでも助けは来ないので、悪しからず」


ハサミのような器具で肝臓につながる血管を次々に切り、傷口から取り出す鎌桐。肝臓からは大量の血が滴り、傷口からも湧き水のように血が漏れ出す。


男「だぁぁぁぁぐわぁぁぁっ!」


鎌桐「私は臓器の中で肝臓が一番好きです。焼肉屋でも必ずレバーを頼みます。あっ、人間の肝臓は食べませんよ。触ったときの弾力が好きなんです。ただ、アナタかなりお酒を飲むようですね。肝硬変になりかかっている。こんな硬い肝臓じゃ、弾力を楽しめないじゃないか!」


鎌桐は不満を発散するように、男の右手の甲にメスを突き立てた。


男「なわぁぁぁもふぁぁぁぁっ!」


鎌桐「この程度ならまだ生きてられるんですよね。しかし、いちいち叫ばれるとウルサイので、先に殺しておきましょうか。別に生きたまま解剖したいわけではないですし、静かなほうが集中できますから」


メスを腹部の傷口に突っ込み、グリグリと心臓のほうへ刃先を進める鎌桐。メスが心臓の壁面と動脈を切り裂いた。傷口からあふれる血の量が、さらに増加する。


男「かっ……ぐふっ……がふっ……」


男の口からも血が漏れ出す。


鎌桐「この出血量からして、あと2〜3分もあれば絶命するでしょう。その間に私は、夜食でも作りましょうかね。カップラーメンですよ。しかもシーフード!!」


手術器具が並ぶ台の上、器具と共に置かれていたカップラーメンの容器を手に取り、男から離れる鎌桐。手術室を出て、湯を沸かし、カップラーメンを作るつもりなのだ。

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