地獄の忍者教室③

トイレの個室で便座に座り、岩十郎の首を膝に乗せたまま嗚咽する空流。仲間の死が、完全に空流の心を壊した。ダムの放水のように涙が止まらない。


岩十郎「泣くな空流……」


岩十郎の首がしゃべり始めた。


空流「岩十郎!?どうして……」


岩十郎「俺も不思議だが、意識がはっきりしている。首を切られたってのに、痛みもない。どうやら、俺はまだこの世を離れられないみたいだ……」


空流「すまない……ボクはいつも足を引っ張るばかりで……さっきも何もできなくて……」


岩十郎「お前は何も悪くない。誰が悪いか、それは俺たちが一番よく分かってるはずだ。猿飛だよ。アイツのやっていることは、忍者の育成なんかじゃない。過剰な児童虐待、そして殺人教唆さつじんきょうさだ」


空流「ああ……分かってる……分かってる……」


岩十郎「どうしてもヤツに一矢報いたい。けれど、首だけになった俺には無理だろうな。だから空流……お前が猿飛を殺れ。頼む」


空流「そ、それこそ無理だよ……ボクみたいなボンクラに、ベテラン忍者の猿飛教官を仕留めるのなんて……」


岩十郎「お前には優れた手裏剣術があるだろう。お前の腕前なら、猿飛を超えられる」


空流「でも……ボクには人殺しなんて……」


岩十郎「お前がやらなければ、俺みたいな犠牲者がこれからもたくさん出るんだぞ。俺の死に涙を流してくれる人間性を持つお前だからこそ頼めるんだ。他の連中はもう、心を失い殺人マシーンになりかけている。良心が残るお前だからこそ、非情な猿飛に立ち向かえる」


空流「人間性……」


男子トイレの扉が勢い良く開く。その音が空流のいる個室の中にも響いた。


猿飛「ここだなブタマラァ!出てこい!貴様を斬首し、俺のイチモツをしこたま咥えさせた後うちの玄関に飾ってやる!」


猿飛の怒号がトイレの中に充満する。空流は個室の扉を開け、ゆっくりと猿飛の前に立ち、睨みつけた。猿飛は右手に手裏剣を3枚握っている。空流の右手にも、手裏剣が3枚。対立する2人を、トイレの外から少年たちが見つめる。


猿飛「殺る気かブタマラ。仲間の死を見てメソメソ泣いてる貴様が、その手裏剣を俺に投げられるのか?殺し屋になり切れてない貴様が?」


空流「……ボクは……今まさに……殺し屋だ」


猿飛「手裏剣を置け。さもなくば、これまでの訓練が楽園に感じるほどの苦痛を与えながら殺す」


空流「アンタこそ、殺し屋になれていないんじゃないのか?殺すと決めた相手は必ず殺す。ベラベラしゃべることなく即殺す。それが殺し屋じゃないのか?」


猿飛「貴様ごときが能書きを」


空流は猿飛より先に手裏剣を投げた。3枚の手裏剣が猿飛の股間に突き刺さる。猿飛は反応できず、避ける動作すら取れなかった。股から大量の血を流し、仰向けに倒れる猿飛。


外で見ていた少年たちが猿飛に駆け寄る。少年たちがトイレに入るのとほぼ同時に、空流はさっきまで入っていた個室に飛び込んだ。


猿飛の首に指を当てて死を確認した鯱次郎が、空流の入った個室を恐る恐る覗き込む。幸せそうな笑みを浮かべて目を閉じる岩十郎の首を抱えたまま、空流は便座に座り、手裏剣で喉を切って自決していた。その表情は苦悶に満ちていた。


猿飛の死により忍者教室は解体。その後、教室の跡地は児童養護施設になった。


<地獄の忍者教室-完->

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