地獄の忍者教室②

2カ月が経過。少年たちは誰一人脱落することなく、猿飛のしごきに食らいついていた。この日行われたのは、高所を移動する訓練。5mの間隔が空いた台座と台座の間をジャンプで往復するというもの。


軽やかに飛び移る少年たちの中、ただ一人、空流だけが転落してしまった。この訓練は2カ月の間に何度も行ってきたが、空流はいまだに一度も成功したことがない。猿飛の怒声が飛ぶ。


猿飛「何回落ちれば気が済むんだこのブタマラァ!貴様の前世はニュートンが見たリンゴかぁ!?連帯責任だ!全員その場で腕立て100回!」


少年たち「ニンジャー!」


3カ月目。この日の訓練は仰向けで水中に潜り、竹筒を水面に出しながら1時間呼吸し続ける水遁の術。池の中から真っ直ぐに伸びる20本の竹筒。しかし、1本の竹筒が沈み、少年が顔を水中から出してしまう。空流だ。


猿飛「貴様呼吸すらできんのかぁ!?ママのおっ⚫︎いを吸うより簡単だろうが!全員水から上がれ!連帯責任だ!スクワット200回!」



−−−−−−−−−−



訓練の休憩時間。空流はトイレの洗面台で顔を洗っていた。自分だけが叱責され、ペナルティを受けるだけならまだ耐えられる。しかし仲間たちまで罰せられる状況が、空流の精神を追い詰めていた。


トイレの扉を開け岩十郎が入ってきた。岩十郎は仲間たちの中でも優秀で、忍者としての実力をメキメキと伸ばしている。空流はそんな岩十郎の足を引っ張っているように感じて、申し訳なさで顔を向けられない。


少しの沈黙の後、岩十郎が口を開く。


岩十郎「あのさ……気にするなよ。あと3カ月の辛抱だ。俺たちみんな、お前と一緒に卒業したいと思ってる」


空流「岩十郎……」



−−−−−−−−−−



5カ月目。手裏剣訓練。人間のイラストが描かれた木の板に向かって、10m離れた位置から手裏剣を投げる少年たち。イラストには部位ごとに点数が書かれており、致命傷になる急所ほど数字が大きい。手裏剣が当たった箇所の合計点数が一定未満の者にペナルティが科される


少年たちの中で、最高得点を出したのは空流だった。


猿飛「ようやく貴様に価値が出たなブタマラァ!手裏剣術なら過去の生徒たちの中でも頭抜けているぞ!もっと敵の急所を狙うよう技術を研ぎ澄ませ!特にお前の大好きな股間を狙え!」


空流「ニンジャー!」


6カ月目。ついに忍者教室最後の日を迎える。道場で横一列に整列する少年たち。それぞれの手には真剣が握られている。


猿飛「これが貴様らマス掻きどもの最後の訓練だ!2人1組で斬り合いを行う。どちらかが死ぬまで戦え。勝った者は正式な忍者だ。負けた者は、自分にはコバエよりも存在価値がなかったのだと思いながら潔くこの世を去れ」


少年たちは表情には出さないが、心の中で激しく動揺した。猿飛の目は本気で、冗談を言っている様子はない。そもそも猿飛がこの6カ月間で冗談を言ったことなど一度もない。今まで寝食を共にし、ツラい訓練に耐えてきた仲間同士で殺し合いをしろと、本気で言っているのだ。


猿飛「貴様らに求められるのは冷徹な殺し屋であること。暗殺対象が親友だろうが、家族だろうが、セフレだろうが殺す。その精神がなければ忍者としてやってはいけない。俺も貴様らと同じ歳の頃に同じ訓練を行い、仲間を殺した。弱い忍者はいらない。必要なのはどんな状況にも動じない強い忍者のみだ!まずは岩十郎と鯱次郎!やれ!」


岩十郎・鯱次郎「ニ、ニンジャー!」


他の少年たちが正座をして見守る中、向かい合うようにして立ち、刀を構える岩十郎と鯱次郎。その2人を、空流は背中に大量の汗をかきながら見つめる。心臓が破裂しそうなほど鼓動していた。


猿飛の「始め!」という号令の直後、岩十郎と鯱次郎は斬り合った。数十秒の鍔迫り合いの後、鯱次郎の刀が岩十郎の首を斬り落とす。切断された首は畳の上で3回バウンドし、空流の前で止まった。


猿飛「見事だ鯱次郎!貴様は今日から正式に忍者と名乗ることを許可する!」


鯱次郎「……ニ、ニンジャー!」


空流は岩十郎の頭を胸に抱き、涙を流した。足を引っ張ってばかりだった空流を気遣い、事あるごとに励ましの言葉をかけてくれていたのが岩十郎だった。そんな空流を見つめる猿飛。


猿飛「何やってんだブタマラ。もう死んでるぞ、ソレ」


空流「教官……ひどすぎます……こんなの、人間がやることじゃない」


猿飛「そうだ。貴様らは人間ではないからな。人を殺すための武器だ。殺し合いの中でしか、貴様らの価値は生まれない」


空流は刀を放り投げ、岩十郎の頭を抱えたまま立ち上がり駆け出す。


猿飛「どこへ行く気だブタマラァ!抜け忍は始末することが鉄則だと教えただろうが!俺が貴様を殺しにいくぞ!」


猿飛の怒り声に耳を傾けることなく、空流は道場を飛び出した。

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