学校のボディガード②

田代「この時間、生徒の立ち入りは禁止されているはずだが、何をしている?」


生徒「調査です。この学校で起きている連続殺人事件の」


田代「それは警察の仕事だ」


生徒「その警察がチンタラやってていつまでも解決できないから、私が動いてるんですよ」


田代「キミは何者だ?」


生徒「荒川あらかわ ナガン、探偵さ」


ナガンは市目鯖女子中学校で発生した数々の難事件を解決してきた、自称探偵。生徒が惨殺されるという前代未聞の事件が発生し、探偵として黙ってはいられなかったのだ。


ナガン「今までは『生徒の持ち物が紛失した』とか『更衣室を覗いている先生がいる』とか、そんな事件ばかりだったけど、今回はレベルが違う。私の、探偵としての力量が試される真の事件だと思ってます。でも事件の調査がしたいなんて言って学校に居残ることを理事長が許可するわけないでしょ?だから忍び込んだんです」


田代は刀を鞘に収めた。ナガンは振り向き、田代の顔を見る。その頭は、窓から入り込むわずかな月明かりを反射し輝いていた。


田代「事情は分かった。だが帰れ。ここは危険だ」


ナガン「探偵がいる学校で堂々と殺人事件を起こされて、見過ごせって言うんですか?もう27人も犠牲者が出てるんですよ!」


田代「犯人はキミが想像しているような、ただの殺人鬼ではない。人間の体を簡単に切断するほどの大きな刃物とパワーを持っている。何より、これだけの人数を殺しても手を緩めることがない精神力は、プロの殺し屋でもそうそう持ち合わせているものではない」


ナガン「なら、アナタが一番怪しいですよね。日本刀を持ち歩き、居合の心得があり、気配なく移動できる。そして学校への出入りも自由なアナタこそ、この事件の犯人なんじゃないですか?」


田代「それが探偵の推理ってやつか。しかし、心外だな。確かに拙者は理事長の依頼で殺し屋をしているが、それは全て、キミたち生徒を守るためだ」


ナガン「……はぁ?どういうことですか?」


田代「ここら辺は、他の地域と比べて治安が良いだろう?その理由は、理事長の頼みで拙者が不審者を消しているからだ」


ナガン「そういえば、駅の階段でウチの生徒のパンツを覗いてくるスケベオヤジが最近いなくなったって聞きましたけど……」


田代「そやつは2週間ほど前、この刀のさびになった」


ナガン「やっぱりアンタヤバいよ!今回の事件とは別のベクトルでヤバい!」


田代「落ち着け。とにかくこの校舎に潜んでいるであろう犯人は、キミの手に負える相手ではない。拙者が必ず斬る。もし拙者を警察に突き出したいなら、その後にしてくれるか?でなければ、犠牲者はどんどん増えるだろう」


ナガン「……分かりました。でも今回の犯人はきちんと法で裁くべきです。だから殺さずに、捕まえてくれませんか?」


田代「犯人が人間なら検討しよう」


ナガンは背中に冷たい気配を感じた。田代は右手で刀の柄を握り、刃が少しだけ見える程度に鞘から抜く。


田代「ゆっくり拙者の後ろに回れ」


極力足音を立てないように田代の背後に回り込むナガン。田代の体越しに廊下の奥を見ると、ナガンが立っていた位置から5mほど向こうに何かがいて、2つの光る目でこちらを見つめている。イタチのような、フェレットのような、体の長い小動物だ。


田代「この学校で生き物を飼育しているか?」


ナガン「校庭でチャボを2羽飼ってます……名前はマサコとアーノルド」


田代「どう見てもチャボじゃないな」


小動物は後ろ足だけで立ち上がった。それでも高さは50cmにも満たない。食物連鎖の世界でなら、下の方にいる生き物だろう。人間にとってまず脅威にはなり得ない種のはずだが、その個体は違った。両前足がグググと伸び、田代の頭のように月明かりを反射して輝く。湾曲した刃。農業で使う鎌そのものだ。


ナガン「まさかアレが……」


田代「鎌にイタチ……まさに鎌鼬かまいたちか」


鎌鼬はナガンの肉眼では捉えられない速度で動き、田代に斬りかかった。ガキンという鋭い金属音が廊下に響く。鎌鼬が振りかざした両前足の鎌を、田代の白刃が受け止めた。

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