首吊り念慮(全2話)
首吊り念慮①
台所で夕食の準備をしているエリカ。にんじんを輪切りにしていたとき、インターフォンが鳴った。玄関に向かい扉を開けると、息子の担任である男性教諭・
エリカが串田を家に招いた理由は、2週間も自室に引きこもり続けている中学1年生の息子・タケルを説得し、外に出るための手助けをしてもらうため。タケルとエリカはメッセージアプリで最低限のコミュニケーションしか取っておらず、長らく顔を合わせていない。タケルが部屋の扉を開くのは、エリカが廊下に置いた食事を取るときだけ。風呂にも入っていないし、学校にも行っていない。串田もそんなタケルの状況を心配しており、タケルが部屋を出る力添えができればと、自ら説得に乗り出したのだ。
エリカ「私も夫も息子に話しかけているのですが……あの子、ずっと『殺されたくない』と言って、扉を開けてくれないんです……」
串田「おそらく、先日うちの生徒に起きた例の事件のことを言っているのでしょうね。タケルくんは、自分も
およそ2週間前、串田が受け持つクラスの生徒2名が自宅で首を吊って自殺。その父母兄妹も、ほぼ同時刻に各自の部屋で首を吊っていた。警察は一家心中と断定。この事件をタケルは異様に恐れている。その理由は、死んだ生徒2名とタケルに「同級生のマサカズという男子生徒のいじめていた」という共通点があるからだ。
3人は、体が小さくて勉強もスポーツも不得意なマサカズに対し執拗に暴力を振るったり、着替えている姿を盗撮してSNS上でばら撒いたりといった嫌がらせを続けてきた。結果、マサカズは不登校になり、自宅で自殺。マサカズの遺体が発見されたとき、二段ベッドの淵にくくり付けた荷造り用のヒモで首を吊っていたという。
マサカズをいじめていた生徒が、彼と同じ首吊りという方法で死んでいたことを受け、生徒の間では「マサカズの怨霊が恨みを晴らしているのではないか」というウワサが出回った。このウワサを、タケルは真に受けてしまったのだ。
エリカ「息子は2階の部屋にいます。どうか、ほんの少しだけでも良いので、外に出るよう先生からも説得していただけますと……」
串田「はい。私にできる限りのことはします。お母様は、1階にいてください。できればタケルくんと2人だけで話がしたいので」
串田は足を乗せるたびにギィ、ギィと音が鳴る少し古びた階段を上がった。2階にあるタケルの部屋の前に立ち、扉を2回ノック。中にいるタケルに話しかけた。
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