ワーナー・ゴースト・トラップ②

PM 10:05

居酒屋の個室で横並びに座る鱒田と大端。テーブルの上に置かれたタブレットを覗いている。


大端「鱒田さんの部屋に、罠と一緒に監視カメラも仕掛けました。カメラで撮影中のリアルタイム映像を、このタブレットで見ることができます」


鱒田「すごい!ボクの部屋が映ってる!」


大端「特殊なカメラで、暗闇の中でもはっきり撮影できますし、幽霊を映すこともできます。つまり、この場で幽霊を駆除する瞬間をご覧いただけるということです。本当に幽霊を駆除したかどうか証明するため、実際の状況をお客様にもご確認いただくようにしております」


鱒田「どうやって幽霊を駆除するのか知りたかったので、楽しみです」


大端「幽霊はいつ現れるか分かりません。場合によっては夜明けまでお付き合いいただく可能性もあります。だから場所を朝方まで営業している居酒屋にしましたが……ご都合は大丈夫でしょうか?」


鱒田「平気です!……すみませんちょっと気になったんですけど、今ボクのベッドで誰か寝てませんか?これ、リアルタイムの映像ですよね?」


大端「はい。当社の社員を寝かせております。幽霊は人間を脅かすために出現するので、囮となる人が必要なのです。彼は何千回も心霊体験をしている、いわばプロの怪奇現象被害者。何があっても逃げ出すことはありませんし、もちろん部屋を荒らすことなどもないのでご心配なさらず」


鱒田「そうですか。でもなんか嫌だなぁ、自分のベッドで知らない人が寝てるの……」


大端「おっと、早速お出ましですね」


画面の端から、髪が長くて白い服を着た女性の幽霊が現れた。カメラに背を向け、ベッドの方に向かってゆっくりと歩いている。


鱒田「コイツです!毎晩現れる幽霊!」


大端「うまく罠にかかってくれると良いのですが……」


ベッドから2mほど離れた位置で、幽霊は足を止めた、直立したまま動かない。


鱒田「あれ?止まった……もしかして、カメラ壊れてません?」


大端「いいえ、動いています。止まっているのは幽霊だけです。第一の罠にかかってくれました。ベッド周辺の床にネバネバのとりもちを敷き詰めておいたのです」


鱒田「幽霊ってとりもちに引っかかるんですね……」


続けて、部屋の四隅に置かれて機械から白い噴煙が上がる。


鱒田「この煙は?」


大端「煙ではなく塩です。塩を噴霧する機械を部屋に設置しました。動体センサーが内蔵されていて、幽霊がかかったとりもちの動きを感知して作動したのです」


鱒田「なるほど!塩で成仏させるのですね!」


そして、ベッドで寝ていた男性が上半身のみを起こし、手に持った十字架を幽霊に向ける。


大端「彼には、塩が噴霧されたら隠し持っていた十字架を幽霊に向けるよう指示してあります」


幽霊は体を激しくくねらせる。塩と十字架に苦しんでいるようだ。だが成仏する様子はない。


鱒田「なかなか消えませんね……」


大端「仕方ない。ならば最終手段です。床に穴が空いてしまうので、使いたくはなかったのですが」


大端は胸のポケットから黒くて平らなリモコンらしき物を取り出すと、その中央に1つだけあるボタンを押した。幽霊の真上から太くて輝く光線が照射される。光線は幽霊の全身を包み込み、10秒ほど照射され続けた。光線が消えると、幽霊もその場から姿を消し、床に大きな穴だけが残っていた。


大端「天井に設置しておいた荷電粒子砲かでんりゅうしほうの射出装置を遠隔で起動し、幽霊を焼却しました。床の穴の修復は当社で行いますので、ご安心を」


鱒田「やった……?成功ですか?」


画面の中でベッドに座る男性が、カメラに向かって両腕で丸を作りアピールしている。


大端「無事成功です」


鱒田「よっしゃー!いえーい!さすがプロの駆除業者!よかったぁ!最強!マジ最強!……そうだ!せっかく居酒屋にいますし、祝杯を上げましょうよ!ね?」


大端「いえ、私は仕事中ですのでお酒は……」


鱒田「そんな固いこと言わずに!ボクが奢りますから、飲んじゃってくださいよ!」


2時間ほどお酒を飲んだ鱒田と大端。その後、仕掛けた罠を回収するため、2人は鱒田の家に向かった。

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