シャークハンターVSゴースト・メガロドン(全2話)

シャークハンター VS ゴースト・メガロドン①

東北地方のある漁村。

曇り空の下、港から水飛沫を上げて一艘いっそう」の小舟が海へ飛び出した。小舟の先端で腕を組み、白いふんどし一丁で仁王立ちしている男、シャークハンター・カツオ、43歳。筋肉モリモリな体の至るところに傷跡が残っている。その一つひとつが、漁場を荒らし、人を襲う凶暴なサメと死闘を繰り広げた勲章だ。


そんな父の背中を見て、サメハンティングのいろはを学んでいる息子・メバル、11歳。やはり白いふんどし一丁。将来は父の後を継いでシャークハンターになることが彼の夢だが、今は小舟のエンジンを操作し、ハンティングする父をサポートするのが仕事である。


今回カツオのもとに舞い込んだ依頼は、ある漁村の沖合に現れた巨大ザメの駆除。依頼主である村長の老爺いわく、「漁師全員がおびえるほど巨大な、『怪物』としか形容できないサメ」とのこと。村長の話を聞いて、カツオのサシャークハンターとしての血が騒いだ。カツオはこれまで、より大きなサメを仕留めることにこだわってきた。幼い頃、父親が体長5.5mのホホジロザメを仕留めた姿を見て、いつかその記録を超えたいと思っていたのだ。もし村長の話が本当ならば、この巨大サメを倒すことで父の記録を超えられるはず。そう思い、二つ返事で依頼を引き受けた。


港から遠く離れた沖で、エンジンを止めたメバル。


メバル「父ちゃん、この辺だよ!例のサメが出る場所!」


カツオ「よし!撒き餌をしろ!ヤツが来るまで待つぞ」


メバルは小舟に乗せていたバケツの中身を海に向かってぶち撒ける。魚の血肉が透明な海の一部を赤く染めた。この血肉のニオイでサメを誘い出すのだ。


カツオ「もりを!」


メバルは一本の銛をカツオに渡す。


カツオ「いいかメバル!この銛は、お前のジイちゃんのジイちゃんのジイちゃんの、そのまたジイちゃんのバアちゃんくらい受け継がれてきた伝説の武器だ。オレたちの家系は代々、この銛一本であらゆる凶暴ザメの息の根を止めてきた」


メバル「もう62回目だよその話!」


カツオ「重要な話だから何度でもするんだ!いいか、サメは歯の裏に何枚も代えの歯があり、しかも死ぬまで生え変わる。つまり武器をいくつも持っているということ。だが、オレたちシャークハンターの武器はこの銛だけ。そう、銛一本で戦うというのは、サメどもへのアンチテーゼなんだ」


メバル「なんかよく分からないけどすげぇ!」


カツオ「お前が一人前になったら、この銛を託す。それまで父ちゃんの戦いをその目に焼き付けろ」


風が強まり、小舟を揺らす波が徐々に大きくなる。巨大なサメが迫ってくるときは、決まって海が荒れるのだ。カツオは、決戦の瞬間が近づいていることを肌で感じ取った。


メバル「父ちゃん!見てあそこ!」


小舟から30mほど離れた場所に、三角形の背びれ現れた。背びれはユラユラと海面を左右に移動している。背びれの大きさは、カツオがこれまで仕留めたどのサメとも比較にならない。4〜5mはあるだろう。ホホジロザメの全長に等しい。背びれだけでも、その怪物っぷりは明らかだ。漁師たちが臆して、シャークハンターに駆除を依頼するのも無理はない。シャークハンターであるカツオでさえ、想像以上の大きさに、恐怖心を抱いているのだから。


一方で、カツオは高揚していた。このサメを仕留めれば、父の記録を超えることは確実。銛を握る手に力が入る。


背びれが小舟の右横から近づく。カツオは銛を振り上げ、サメに向かって投げ付ける構えをした。小舟と背びれが接近する直前、ひれが完全に海の中に沈む。


小舟の上から海中に潜ったサメを覗くカツオとメバル。その全長は小舟の5倍以上、約20mはあるだろう。大きさだけでいえばクジラだが、体の形はホホジロザメに近い。


異常なのはその体躯だけではない。サメの体は透き通り、その下を泳ぐ魚の姿が見える。カツオは、相手がただのサメではないことを察した。


カツオ「メバルゥ!コイツは絶滅した太古のサメ、メガロドンだぁ!絶対に舟から顔を出すなよぉ!今までのサメとは桁違いにヤバい!」


カツオが大声を発した直後、メガロドンの尻尾が小舟に当たった。メキメキと音を立て、小舟がひっくり返されそうになる。舟のへりにつかまり、落とされないように体を支えるメバル。カツオは立ったまま動じない。


カツオ「おそらく、過去最高にデンジャラスな戦いになるだろう……だが、うずくぜ。シャークハンターとしてのプライドがよぉ」


ニヤリと笑みを浮かべるカツオ。再び背びれを海面に突き出し、接近するメガロドン。カツオはメガロドンをギリギリまで小舟に近づけ、銛を思い切り投げつけた。


サメの弱点である鼻先に銛が刺さった、はずだった。銛はメガロドンの体をすり抜け、力なく水中を舞う。メガロドンは銛に驚き身を翻したが、血の一滴も流していない。カツオは海面に浮かんできた銛を拾い上げる。


カツオ「実体がない……だから海の中も透けて見えるし、銛が刺さらないのか?」


メバル「あのサメ、もしかして幽霊!?」


カツオ「ああ。メガロドンは絶滅したはず……おそらく当時のメガロドンが魂だけの存在になって今も漂っているのだろうよ」

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