ライブ・ハード②

撃山は廊下の左右にある襖を次々に開け、部屋の中を確認しながら「クリア」とつぶやき奥へと進む。廊下の最奥左手にある襖を開けた瞬間、今までと比べ物にならないほど強い鉄の匂いが、2人の鼻の奥に突き刺さった。


赤い壁紙かと勘違いしてしまいそうなほど血が飛び散った部屋。その中央にあるコタツの上に、我場野ヨネと思しき老婆の体がバラバラの状態で置かれていた。服は着ておらず、まるでスーパーの精肉コーナーのように左足、左腕、胸部、頭、腹部、右腕、右足の順で横一列に並べられている。


床に四つん這いになり嘔吐する服来。一方で撃山は冷静そのもの。部屋に入り、標本でも眺めるかのように死体を調べ始めた。


服来「撃山さん……これは一体……」


撃山「人間の仕業とは思えないな」


直後、部屋の隅にあったテレビの電源が入り、ザァァァァという雑音と共に画面に砂嵐が映る。砂嵐が20秒ほど続くと、古い井戸の映像に切り替わった。


服来「これ……呪いのビデオですよ!来る……きっと来る……貞子が来るぅ!」


撃山はテレビ画面に向かって2回発砲。穴が空いた画面は暗くなり、バチバチという音を立ててテレビは壊れた。


撃山「貞子だか伽耶子だか知らんが、テレビがぶっ壊れては出てこられまい」


服来「撃山さん上ぇぇっ!!」


上を向く撃山。天井から、白い服を着た髪の長い女の上半身だけが垂れ下がり、撃山に向かって手を伸ばしていた。撃山は弾倉に残った3発の弾を全て女に向かって放つ。女の体は、銃弾が当たった箇所から霧散した。


撃山「クソったれぇ!何なんだこれは?!」


撃山は弾倉の空薬莢を全て床に落とすと、ジャケットの内ポケットからスピードリローダーを取り出し次の弾丸を装填する。


服来「撃山さん後ろぉ!今度はショートボブの女がぁ!」


撃山が振り向くと、白い服を着たショートボブの女が両手を伸ばして迫っていた。撃山は女の胸に3発、眉間に1発弾丸を見舞う。ショートボブの女も銃弾が当たった箇所から霧散し、消え去った。


服来「撃山さん廊下にもぉ!ショートカットのぉ!」


撃山「女か!?」


服来「男がぁ!」


撃山が廊下に出ると、スポーツ刈りで白い服を着た男が、今にも服来に襲い掛かろうとしていた。撃山は男の腹部に残弾1発を放つ。しかし、男は先の2人の女と比べて体がかなり大きく、腹の一部が霧散するだけで全身は残り続けている。


撃山「SAKURAじゃ威力不足か?!ならば!」


撃山は腰に右手を回す。ジャケットで隠すようにスボンと腰の間に挟んでいた銀色のコルトパイソンを取り出し、トリガーを引く。発射されたマグナム弾2発が男の首にあたり、両肩を巻き込んで大きく霧散させた。肩口から男の全身が消えていく。


服来「撃山さん……どこでそんなデカい銃を?!」


撃山「昨日殺りあったヤクザから押収したもんだ。それより、お前は出口を確保しろ!」


床や天井、壁から白い服を着た男女十数人が湧き出てくる。


撃山「なるほどな。ここは幽霊になった男女が巣食う、淫らなラブラブシェアハウスだ!」


撃山は羽虫のように湧く幽霊へ銃撃を続ける。服来は廊下を這って玄関へと進むが、途中で手をつないだ男女の幽霊に行く手を阻まれた。


服来「ダメです!玄関からは出られませぇん!」


撃山「2階に行くぞ!」


撃山は服来の首根っこを引っ張って無理やり立ち上がらせ、廊下にある階段を昇った。階下から幽霊たちが両手を前に伸ばし、ゆっくりと2人を追いかける。


2階は大きなワンルームになっており、2人から見て正面に窓があった。


撃山「俺が時間を稼ぐ!窓を開けてベランダから飛び降りろぉ!」


服来に指示を出し、撃山は階段を昇ってくる幽霊の群れにマグナムを撃ちまくる。服来は窓のロックを外しスライドさせようとするが、窓は何か強い力で押さえつけられ1ミリも動かない。


服来「ここもダメです!開きませぇん!」


撃山「ならどいてろぉ!」


撃山はズボンの左ポケットから手榴弾を取り出すと、口でピンを引き抜き、窓に向かって投げつけた。部屋の隅に避難し身をかがめていた服来に覆い被さる撃山。


ズドンという爆音が、静かな住宅街に響いた。


噴煙が上がる我場野ヨネ宅2階のベランダから、服来を左脇に抱えた撃山が飛び降りる。着地したのは、2人が乗ってきた車のボンネットの上。


撃山「……間一髪だったな」


服来「しゅ、手榴弾なんてどこで?」


撃山「昨日、ヤクザから押収した」


ボンネットから下りる撃山と服来。先ほど撃山が扉を蹴破った玄関から家の中が筒抜けになっている。中には白い服を着た大量の男女の幽霊が立ちすくみ、外にいる服来をじっと見つめていた。


服来「この家には何かがある……ひったくり犯とは別に、調査が必要かもしれない……」


撃山「いや、その必要はない」


車のトランクをあさっていた撃山は服来にそう告げ、トランクのふたを閉めた。右肩にロケットランチャーRPGを担いでいる。


撃山「喰らいやがれ!イピカイエー!クソったれぇ!」


放たれたロケット弾が玄関から家の中に入り大爆発。業火があっという間に家を包み込んだ。


服来「それをどこで……?」


撃山「だからヤクザから押収したんだよ!何度も言わせるな!」


家主の我場野ヨネに何があったのか、家に現れた大量の幽霊は何だったのか、それは分からない。ただハッキリしているのは、撃山と服来が懲戒免職クビになったことだけである。


<ライブ・ハード-完->

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