ライブ・ハード(全2話)

ライブ・ハード①

朝の大通りを走る1台の白い車。警察官が乗る捜査車両、いわゆる覆面パトカーだ。ハンドルを握るのは服来 広吉ふくらい ひろよし、24歳。スーツ姿にあどけなさが残る若手刑事だ。


隣の助手席に座り、ダッシュボードに足を乗せるスキンヘッドの男・撃山 九連うちやま くれん、39歳。服来とバディを組むベテランの警部補である。


服来「撃山さん、朝ごはん食べました?もしお腹空いてるなら、コンビニ寄りますけど」


撃山「心配無用。お前は自分のことだけを考えろ。いつ、どこから、誰に狙われてもおかしくない。それが警察官という仕事だ」


服来「そんなに警戒しなきゃならないのは撃山さんだけですよ。聞きましたよ、昨日、非番だったのにヤクザ3人射殺したって」


撃山「連中がしつこく『ヒットマンにならないか』と誘ってきたんでな。弾丸で脳に直接NOと返事をしてやったのさ」


服来「撃山さんが射殺した犯罪者、これで何人目です?」


撃山「70人から先は数えていない」


服来「そりゃ殺し屋のスカウトも来ますって!知ってます?撃山さん、うちの課のみんなから陰で『ダイ・ハード』って呼ばれてるんですよ!」


撃山「『ダイ・ハード』か、悪くない。もっと広めろ」


服来「バカにされてるんですって!そろそろ、ボクまで変なアダ名つけられるんじゃないかってヒヤヒヤしてるんですから!」


撃山「俺の後を継ぐのは服来、お前と決めている。だからお前は『ダイ・ハード2』と呼ばれるようになれ」


服来「嫌ですよ!」


撃山「おい『ダイ・ハード2』、拳銃は持ってきたか?」


服来「持ってませんけど。今日は単なる、連続ひったくり事件の聞き込み調査ですし」


撃山「バカ野郎!デカが銃持たなくて、どうやって市民を守るんだ!今すぐ引き返せ!」


服来「ダメですって!もうすぐ着きますよ!」



−−−−−−−−−−



2階建ての日本家屋の前に車を停める服来。


服来「ここですね。本日早朝、ひったくりの犯行現場を見たと通報してきた女性・我場野がばのヨネさんのご自宅です。年齢は82歳。一人暮らしだと聞いています」


撃山「その姉ちゃん、今は家にいるのか?」


服来「姉ちゃんってお年の方ではないと思いますが、ボクたちが来るまで自宅で待機してもらうよう連絡したので、いらっしゃるはずです」


撃山はジャケットをめくり、体に巻き付けるよう装着したホルスターから回転式拳銃SAKURAを取り出す。そして弾倉シリンダーに入っている弾の数を確認し、ホルスターに戻した。


服来「ほ、本当に持っていくんですか……?」


撃山「女性の一人暮らしだからって甘く見てるんじゃないのか?扉を開けた瞬間、ショットガンを突きつけられる可能性だってある。これくらいの武装は当然だ」


服来「我場野さんにいきなり銃口向けたりなんてことはやめてくださいね……」


2人は車を降りると、玄関まで歩き、服来がインターフォンを押した。返事はない。もう一度押すが、中にいるはずの我場野ヨネが玄関に近づく気配すら感じられない。


服来「あれぇ?留守かなぁ?」


撃山は服来の肩を引っ張って一歩下がらせ、拳で玄関の引き戸を連打した。


撃山「こんちわー!姉ちゃんいんのか!?警察だぁ!例のひったくり野郎の話を聞きに来た!いるなら出てきてくれぇ!」


服来「ちょ、ちょっとダメですってそんな強引に」


撃山「おい服来よ。ひったくり犯が顔を見られたと思って、我場野って姉ちゃんを殺してたとしたら……ここまでやかましくしても出てこないことと辻褄が合わねぇか?」


服来「はぁ?いや、ひったくり犯はこれまで殺しはやってませんし、単に留守なだけで」


撃山は引き戸を思い切り蹴破った。


服来「な、何やってるんですか!?こんなことしたらボクたちのほうが犯罪者に」


撃山「バカが気づかねぇのか!?血の匂いだ!」


服来は鼻をスンスンと鳴らし、家の中から漏れ出る空気の匂いを嗅いだ。鉄のような匂いがわずかに混ざっている。


撃山は右手で拳銃を取り出すと、家の奥へと続く暗い廊下に土足のまま入っていった。遅れて服来が、靴を玄関に脱いで「お邪魔しまぁす」と小声で言い、撃山の後を追う。

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