陰と陽の攻防②
男「アイツとボクは、同じ会社に新卒で入社した同期社員なんです。タイプが真逆で全然仲良くなかったけど、それだけなら何も問題はなかった」
キョウカ「たしかにパッと見の印象だと、アナタは暗そうというか……陰キャですよね。暗井さん、名前の漢字に反してめっちゃ陽キャだからなぁ。お店に来るときも友達とか、会社の後輩とかと一緒だし。学生のときはサッカー部のエース選手だったらしいし」
男「ええそうです。ボクは陰キャですよ。それでも何とか暗井と同じオフィスで7年一緒に仕事を続けてきました。でも、アイツはやってはいけないことをした……総務部の
キョウカ「ええっ!?暗井さんって人の恋路なんか邪魔しなくてもモテそうなのに……」
男「アイツ、ボクに『広瀬さんに二度と近づくな』って言ってきて……7年間、毎晩電話をするほど愛し合っていたのに……」
キョウカ「そうなんですか……ん?待ってください。その広瀬さんって方とアナタ、本当に恋仲だったんですか?」
男「ええ。毎晩最低でも100回は電話をかけていましたし、毎日会社から家に着くまで背後を守ってあげていましたし、広瀬さんには内緒でお父様とお母様に挨拶まで済ませました」
キョウカ「ストーカーじゃねーか!暗井さんはアンタから広瀬さんを守っただけでしょ!」
男「あの日以来、広瀬さんとボクの間に大きな溝ができました……それがショックで、自殺したんです」
キョウカ「最初からマリアナ海溝くらい深い溝があったんじゃないですかね?」
男「もちろん暗井に対する憎しみもありました。だからこうして、幽霊になったのだと思います。アイツに復讐するために……」
キョウカ「てか、そんな逆恨みで私に殺しをさせようとしてるってことですかぁ!?マジ最低のクズじゃん!そこまで恨んでるなら自分でやってくださいよ!」
男「もちろん最初はやろうとしました。でも、アイツの周囲10mくらいに近づくと、体がとても熱くなって、霧みたいに消え始めるんです……ボクはアイツに近づくことすらできない!」
キョウカ「ああ、明るい人には幽霊が寄りつかないってよく聞きますもんね。そういうことか。暗井さん、その場にいるだけで除霊できちゃう系の人なんだ」
男「だからアナタにお願いしているのです!どうか、暗井を地獄につき落としてください!」
男は三角座りの姿勢から、音を置き去りにするほどのスピードで土下座に切り替えた。
キョウカ「う〜ん、やっぱり却下。暗井さんは優良客だから殺せない。それに、仮に私が暗井さんを殺したとして、アナタはどうなるんです?」
男「それは……分からないですけど……」
キョウカ「アナタが幽霊になった目的が暗井さんの殺害だとしたら、それを達成したらアナタの存在が消えちゃうかもしれませんよ?どうせ消えるなら、アナタ自身の手で決着をつけないと、それこそ後悔するんじゃない?」
男「うっ……たしかに……」
キョウカは小さな瓶を男の目の前に差し出す。
キョウカ「これは、自然界最強クラスの致死性があるヤドクガエルの毒をベースに、さまざまな薬品を調合して作った毒薬。投与された人間は眠ったように死に、自然死にしか思われない」
男は瓶を手に取った。
キョウカ「幽霊のアナタなら、暗井さんに気付かれないよう近寄って、この毒を直接注射できるんじゃないですかね?」
男は手の中の瓶を見つめ、黙り込んだ。
キョウカ「まぁ、私は毒薬を作って売るのが仕事ですから、それを使うことまでは強制しませんけど」
男はメガネを指でクイっと上げ、口を開く。
男「ボクの人生、言い訳してばかりでした。死んだ今も言い訳をして、自分の恨みを赤の他人に晴らしてもらおうとしてるなんて、情けない話ですよね。分かりました。ボク、自分でやります。自分の手で、暗井を仕留めます。たとえこの身が滅んだとしても」
キョウカ「そうですか。正直、私はやめてほしいですが、上手くいくといいですね。……そういえば、アナタの名前を聞いてませんでしたよね?最後になるかもしれないから、一応聞かせてくれませんか?」
男「
キョウカ「めっちゃ陽キャっぽいっ!!」
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