水の神②
その後も、同じ要領でゲームを続けたミモトとお兄さん。お互い勝ったり負けたりを繰り返し、飲んだテキーラショットの杯数は、それぞれ130を超えた。
ミモト「はぁ……はぁ……タバコ……吸ってもいいですか?」
お兄さん「良いよ。タバコを吸ったらダメというルールはないからね」
ミモトはライターで細いタバコに火をつけ、煙を吸い込む。ミントの香りが鼻から頭の芯に染み、少し意識がハッキリした。普段タバコを吸うことのないミモトだが、非常用に持ち歩いている。本当に飲むのがキツくなったとき、気を紛らわせるための苦肉の策だ。万全の状態なら今の倍は飲めるはずだが、連勤と二日酔いが足を引っ張っている。
いくら酒が強いミモトといえど、テキーラを130杯も飲めば顔が赤くなり始めたり、呂律がまわりにくくなるなったりなど、体に変化が出る。一方でお兄さんは、ミモトが席についたときから様子が全く変わっていない。ただの水だって130杯飲むのはキツいはずなのに。
お兄さん「すごい……すごいよ。何人もの酒飲みをあの世送りにしてきた伝説の殺し屋キャバ嬢というのは、ミモトさんで間違いないようだね。ボクがここに来たのは、偶然じゃない。キミのウワサを聞いて、どれほど飲むのかこの目で見たかったんだよ」
お兄さんはまだやる気のようだ。少しでも体調を元に戻すべく、ミモトはタバコを一気に根元近くまで吸う。
お兄さん「まさかこんなに飲める人間がいるなんて……ここまで頑張ってくれたミモトさんに敬意を表し、見せてあげるよ」
お兄さんはスーツを捲りあげ、お腹をあらわにした。お兄さんの腹部は透き通っており、向こう側がユラユラ揺れて見える。
お兄さん「ボクは、体の100%が水分でできた妖怪の末裔なんだ。日本に昔から住んでいて、地方には『
お兄さんはスーツを元に戻し、お腹をしまう。
お兄さん「ボクは体内に入った液体を自在に操れる。酒の成分を分解し、アルコールだけを吸収させず体の一部に溜め込むこともできるんだ。今は股間の辺りに溜めている。こんな体だから、いくら飲んでも酔っ払うことはないんだよ」
タバコを持つミモトの手が震えた。いま自分が相手にしている客は、人間ではない。無限に酒を飲める、本物のアルコールお化け。そんな相手と飲み比べを続けたところで、ミモトの負けは確実。
お兄さん「さぁ、次の勝負をしようか、伝説の殺し屋キャバ嬢さんが……死ぬまで!」
お兄さんが手の中でサイコロを転がす。
ミモト「その前に一つ聞かせて……お兄さん、他のキャバ嬢にも同じゲームをして潰しまくってると言ってましたよね……?」
お兄さん「うん、そうだよ」
ミモト「なぜ……?」
お兄さん「趣味だよ。それ以外に深い理由はない」
ミモトは震える手で、テーブルの灰皿にタバコを押し付ける。
ミモト「これは仕方がないこと……お客さんに楽しんで帰ってもらう……それがキャバ嬢の鉄則……だけど……迷惑客が相手なら、その限りではない……」
お兄さん「ん?どうしたの?さぁ、続けようよ!」
ミモトはライターの火をつける。
ミモト「お兄さん、今アルコールを股間に溜めているんですよね?」
お兄さん「そう。まだまだ溜められるよ。だからボクは、酒飲み勝負で負けることはないのさ」
ミモト「ええ、勝ちはアナタに譲ります。だから私の命だけは勘弁してもらえないかしら」
ミモトはお兄さんの股間に火がついたままのライターを投げつけた。お兄さんが溜めたアルコールに引火し、爆発したかのように激しく燃え上がる。炎の熱でお兄さんの体の水分は全て蒸発。そのまま消え去った。
−−−−−−−−−−
自宅のリビングでコタツに入り、ミカンを食べながら母の話を聞いているシゲミ。
シゲミの母「私が大学時代、キャバクラでアルバイトをしていた頃、そんなことがありました」
シゲミ「なんだ、母上も幽霊を爆殺してたんじゃん。何だよ、今は閃光手榴弾なんて
シゲミの母「あの後、私は店をクビに。キャバ嬢の間では、
シゲミ「あっそ……関係ないんだけど、母上はなんでミモトって源氏名だったの?」
シゲミの母「ミモト、トモミ、つまり私の本名・トモミのアナグラムです。何か文句でも?」
シゲミ「別に何も」
<水の神-完->
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