復讐のChain(全3話)

復讐のChain①

殺し屋にとって、ターゲットの情報は必須。顔、名前、職業、住所、人間関係、生活パターン……こういった情報から最適な殺害方法、実行する時刻、場所などを考える。情報収集の段階で、暗殺の成否が8割決まると言っても過言ではない。


殺し屋がターゲットの情報を集める方法は、おもに3つ。1つ目は、依頼人がターゲットについてよく知っており、依頼のタイミングでより細かく情報を聞き出す方法。2つ目は、殺し屋自らターゲットの身辺調査をする方法。3つ目は、情報収集の専門家に外注する方法。


このうち、3つ目の方法を選択する殺し屋から仕事をもらい、生計を立てているのが、ハンドルネーム「黄身子 The Spyきみこ ザ スパイ」。30代後半の女性で、あらゆるネットワーク、データベースに痕跡なく侵入し、国家機密レベルの情報でも盗み出す凄腕のハッカーだ。インターネット上にある情報は、実質的に全て黄身子のものである。


3台のパソコンモニターを見ながら、ピアニストのようにタイピングをする黄身子。机に置いたスマートフォンが振動した。知らない番号からの電話だ。


黄身子「もしもし……ああ、童元どうもとさんでしたか。えっ、殺し屋?大丈夫なんですか?……はい……分かりました。では、その殺し屋の顔写真と、もしあれば身分証の写真も送ってもらえますか?持ってない可能性が高いですが……はい……では明日、折り返します」


電話の相手・童元は殺し屋ではない。新進気鋭のIT系ベンチャー企業社長。しかし裏では犯罪まがいの手段を使って成り上がってきた。競合他社の重役をスキャンダルで脅したり、同僚を蹴落とすため家族の危機を暗示したり、ある意味殺し屋より残忍な男。そんな童元が暗躍し、現在の地位を手に入れるには情報屋、つまり黄身子の存在が不可欠だった。そして黄身子にとっても童元は、定期的に仕事を依頼してくれる太客。2人はWin-Winの関係を築いていた。


今回の依頼は、童元の命を狙った殺し屋とその依頼人の特定。報酬は300万円。黄身子の腕前ならさほど難しくない仕事であり、それでいて高額の金が手に入るおいしい案件だ。


童元から、殺し屋の顔写真が添付されたメールが届く。身分証は持っていなかったそうだ。身分証があれば調査はもっと楽に進められたのだが、捕まったり、死んだりしたときに足がつくようなものを持っている間抜けな殺し屋はまずいない。


童元からのメールとほぼ同じタイミングで、新しいメールが受信フォルダに届いた。同業者の、ハンドルネーム「シャブねこ」からだ。黄身子は自分だけでは手が回らなくなると、シャブねこに仕事を振る。黄身子ほどではないが、シャブねこも高い能力を持つハッカーだ。基本的にシャブねこと連絡をする際は黄身子発信であり、シャブねこから連絡が来たことは数えるほどしかない。その内容も業務連絡だけで、今回のような文面が来たのは初めてだった。



From:sYaB-caT@−−−−−−−.com

To:kimi-ko.soy-sauce@−−−−−−−.com , todaaaa-knife@…………

件名:このメールを12時間以内に80人に転送してください。


このメールは不幸のメールです。

このメールを12時間以内に80人に転送してください。

文面を変えてはいけません。

放置してもいけません。

もし守らなければ、あなたを殺しに行きます。



何十年も前に流行したチェーンメールそのものだ。令和の時代に、チェーンメールを真に受ける人間はいない。普段なら見向きもしないが、気になる点があった。このメールの送り主が、自分と同じくインターネットに頭から足の裏までどっぷり浸かっているであろうシャブねこだということ。シャブねこがチェーンメールに引っ掛かるとは思えない。しかも、他のクライアントのアドレスをBCCに入れることなく一斉送信している。シャブねこのITリテラシーの高さを考えると、まずありえないことだ。


バカげていることは百も承知だが、念のため黄身子はシャブねこに真偽を確認するメールを返信。そして童元からの仕事に取り掛かった。

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