足音②

喫茶店に入り、ボックス席に向かい合って座る清野と女性。彼女の名前は真波まなみというらしい。年齢は清野より6つ上の37歳。細身で、ハイヒールを履いた身長は170cmを少し超えている。ウサギのように小顔で目が大きい。黒くて長い髪をポニーテールにしているので、輪郭が際立ち、小顔っぷりがより目立っている。


さっきは足元にばかり気を取られていたが、真波は清野にとってどストライクのルックスをしていた。


真波「だいぶ気配を消してたんだけど、見える人には見えちゃうんだね〜」


清野「いや、ボクも自分に霊感があるなんて思ってませんでした」


真波は死後も現世を漂い続ける魂だけの存在。つまり幽霊だ。


真波「気付いてなかっただけだよ。ほら、幽霊って今の私みたいにごく普通の格好してるから。生きてる人と見分けにくいと思う」


自分には不釣り合いなほど美人な真波と話していると、周りの客や店員からどう見られているのか気になってしまう。しかし、それは要らぬ心配かもしれないと思い直す清野。


清野「……もしかして、いまボク、他の客や店員からは一人で会話してるように見えてます?」


真波「大丈夫。私、今は気配MAXにして、霊感がない人にも見えるようにしてるから。そういう切り替えができるの。光学迷彩みたいだよね〜」


一人で話しているより、真波と自分の器量の差が目立つほうが恥ずかしいと感じた清野。だが、その程度の恥じらいで真波との会話を断念するわけにはいかない。


清野「真波さんのように幽霊になれば、足音を完全に消せるのでしょうか?」


真波「気にしたことなかったけど、たぶん。てか清野くん、なんで足音消したいの?」


清野「仕事の都合と言いますか……いや詳しく言えないんですけど、とにかく音を殺して歩けるようになりたいんです!」


真波「じゃあ幽霊になるのが手っ取り早いんじゃない?私もなりたくてなったわけじゃないから、できるかどうか分からないけど」


清野「真波さんは、なぜ幽霊になれたんでしょう?」


真波「う〜ん、憶測でしかないけど、執着心だろうね。忘れられない人がいるの」


清野「恋人とか?」


真波「恋人だと思ってたのは私だけ。高校時代の同級生で、卒業した後に同窓会で意気投合して、付き合った男がいたのね。でもその男、暴力がすごくって。DVってやつ?しかも私以外に24人の女と浮気してたの」


清野「ヤバ過ぎませんかその人」


真波「ヤバいでしょ?。当時、私もすごくショックを受けた。で、首吊ったの。でも、彼のことを今でも忘れられなくて、こうして幽霊になってまで探してる。ダメな男に弱いんだよね〜私。バカなことしてるって分かってるんだけど」


「筋金入りのバカだ!ボクならそんな思いさせない!」と大声で叫びそうになった清野。だが、暴言を吐いた上に自分語りなんてしようものなら真波の機嫌を損ね、幽霊になる秘訣を聞けなくなると思い、口に出す寸前で飲み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る