足音(全3話)
足音①
ターゲットを尾行し、人の気配が無い場所に向かったところを背後からコンバットナイフで滅多刺しにする。それが殺し屋・
深夜1時過ぎ。男は静まり返った住宅街を歩いている。周囲には誰もいない。仕留める絶好のチャンスだ。清野は忍び足で男の背後からゆっくりと近寄る。あと5mのところまで来たとき、
コツン
足音を立ててしまった。普段なら誰も気にしないであろう小さな足音だが、カラスの1羽すらいない住宅街では、オッサンのクシャミくらい響く。男は足音に気付き、振り返る。清野はギリギリのところで右手に持っているナイフを尻ポケットにしまった。清野と目が合った男は不審そうな表情を浮かべ、その場から逃げるように小走りで夜の闇へと消えていった。追いかければ怪しまれ、もう二度とチャンスは無くなってしまうだろう。
男を仕留め損なったのはこれで4回目。すべて清野が立てた足音に勘づかれたことが原因だ。これ以上失敗が続けば、依頼は白紙になってしまうだろう。しかし、成功すれば2,000万円。この機会を逃さないためには、足音を完璧に消す術を身に付けるほかなかった。
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東京・池袋の繁華街を歩く清野は、街行く人々の足音に聞き耳を立てていた。足音が小さい人はいないか、いるならその人はどうやって歩いているのか、反対に大きな足音を立てている人の癖は何か、観察することにしたのだ。
歩き方だけではない。人々が履いている靴にも着目した。革靴よりも、底が平らで柔らかいスニーカーのほうが静かに歩けるだろう。あるいはターゲットを殺す直前は靴を脱いでしまうのもありかもしれない。ハイヒールはもってのほかだ。足音が大きくなるし、女性もの……ん?ちょっと待て?
清野は薄茶色のジャケットに黒い膝丈のスカート、高めのハイヒールを履いた、30代後半の女性に目が行った。彼女の足音は小さいなんてレベルではない。いくら耳を澄ましても聞こえないのだ。ハイヒールを履いているのに。
清野は女性を尾行することにした。殺すためではなく、学ぶために。女性から3〜4mの距離を保ちながら、足元をガン見して20分ほど同じ方向に歩く。すると突然、女性がくるりと振り向いた。視線をそらし、偶然行く方向が同じだったように装う清野だが、女性は一直線に近づいてくる。ストーカーと間違われて、警察を呼ばれるのではないかと思い、背中に汗をかく清野。だが、女性から放たれた言葉は、意外なものだった。
女性「あの……私のこと見えてるんですか?」
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