殺人格⑤
24時間365日、監視された檻の中で暮らす餅前。
食事と睡眠以外に娯楽と呼べるものはない。しかしこれも全て、殺人を犯す人格を消し、元の生活に戻るため。餅前は激しいストレスと毎日戦い続けた。
1986年7月2日
監禁されておよそ2週間が経過した。餅前はある異変に気付く。両手が、以前の自分のものではないのだ。ゴツゴツとした指に、厚い手のひらの皮。まるで大柄な男性の手になっている。
そんな餅前を含む患者3名の檻を1つずつ、箱型テレビのようなモニターに映している監視室。モニターの前で我場野がイスにふんぞり返っている。4つのモニターうち3つには、檻の中で暮らす患者が映っているが、残り1つの檻は空だ。
監視室に入ってきた若い女性看護師が、我場野にカルテを渡す。
看護師「検体A、Bともに体調良好。任務の継続に支障はありません。検体Dにも身体変容の兆候が見られます。あと7日ほどで殺人格が心身を完全に支配し、任務に移行できるでしょう」
我場野「順調だねぇ」
看護師「しかし、グアテマラに派遣していた検体Cが消息を断ちました。現地の報道を見たところ、テロ組織のリーダー・ベキューを暗殺後にアメリカの特殊部隊と交戦し死亡。検体Cの遺体は軍が回収した可能性が高いかと。推察ですが、殺人衝動が抑えられず、さらなる殺しをしようとテロ組織だけでなく特殊部隊とも戦闘したのだと思われます」
我場野「殺し好きが過ぎる困りものだな……クライアントから報酬はすでにもらっているんだよね?」
看護師「はい。ベキュー暗殺は完了しましたので」
我場野「なら良いや。検体Cの身元や入院歴は抹消済みだから、遺体からうちの医院が特定されることはないだろう。けれど人手が減ったのは問題だなぁ。検体Dにはもう少し早く仕事に取りかかってもらわなければ。薬の量を3倍に増やし、身体変容をあと4日前倒ししてくれるかな」
看護師「承知しました。それにしても院長、よくやりますね。無意識に殺人を犯してしまう患者の理性を薬で殺して、身も心も完全な殺し屋に仕立てるなんて」
我場野「真面目に診察しているだけでは、うちの医院は潰れてしまう。検体たちが頑張って殺しの仕事をしてくれてるから、私たちの生活があるんだよ。彼らには感謝しなければならないね」
<殺人格-完->
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