殺人格③
パティ大尉「モスゥゥぅぅうおおぉぉぉぉあぁぁぁぁっ!!!」
パティ大尉は平家の影から体を出すと、モス軍曹の亡骸の側に立つ大男に向かい、弾が尽きるまで撃ちまくった。完全に隙を突いたはずだが、それでも大男のヒョウのように素早い動きを止めることはできない。
パティ大尉「銃弾が当たらないならよぉっ!コイツを召し上がりなぁぁっ!」
アサルトライフルに取り付けたグレネードランチャーの引き金を引く。ポンッという音とともに榴弾が放たれ、土煙を上げながら爆発した。立て続けにパティ大尉は、胸に装着していた手榴弾のピンを抜き大男に向かって投げつける。持参していた手榴弾4つ全て投げ切った。
爆発によって舞った土煙がキャンプ全体を覆う。平家の影に再度身を隠し、アサルトライフルの弾倉を交換するパティ大尉。土煙が視界を遮り、大男の姿は見えない。
パティ大尉「俺からお前が見えないなら、お前からも俺が見えないということだ……もっと近づかないと俺は殺せないぞ……さぁ、来い……ライフルで歓迎してやる」
建物の影から少しだけ顔を出し、大男の動きを視界に捉えようと試みる。土煙が一箇所だけ大きく動いた。その瞬間を見逃さなかったパティ大尉。
パティ大尉「そこだぁぁぁぁあああああクソ野郎めぇぇぇっ!!」
土煙の動きに合わせてアサルトライフルの銃口を動かし、装填された20発の弾丸を発射。銃声に混じって低い唸り声と何かが倒れる音が小さく響いた。
パティ大尉は大男の視界を奪うために手榴弾であえて土煙を上げた。目的はそれだけではない。ナイフを武器にしている大男は、攻撃する際に必ず相手に接近する必要がある。その際、体の動きに合わせて土煙も動き大男の居場所が明らかになる。その瞬間を攻撃する不意打ち作戦だ。
土煙が晴れる。大男は地面にできた血溜まりの上で仰向けに倒れていた。アサルトライフルの弾倉を交換し、銃身を正面に向けながら大男にゆっくりと近づくパティ大尉。
大男は動く様子も、呼吸をしている様子もない。遠目に見てもほぼ間違いなく死んでいる。しかし殺しのプロである軍人に手抜かりはない。頭を撃って確実に息の根を止めるべく、歩みを止めないパティ大尉。
直後、大男の手足が上の方にピンッと伸び、ボキボキと音を立てながらあらぬ方向に曲がり始めた。そして数十センチほど短くなると、パタンとまた地面に倒れた。
パティ大尉は大男の傍に立ち、顔を確認する。
パティ大尉「誰だコイツは……」
さっきまで戦っていた大男は、小柄で黒い短髪、10代中盤のアジア人男性に代わっていた。
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1987年2月13日 PM 3:00
アメリカ・ウエストバージニア州
山道を走る一台の赤い車が、あるトレーラーハウスの前で停まった。運転席から降りてきたのは30代中盤の女性。
トレーラーハウスの前では、男が一人、斧で薪割りをしている。
バニラ「バーグ・パティ大尉ですね?」
パティ「……元大尉だ」
バニラ「失礼しました。先日お電話した、ジャーナリストのバニラ・シェイクです。国際テロ組織の主犯を殺害したあなたが、数ヶ月後に軍を除隊処分となった件について、お話を伺いたく。国の英雄が軍から厄介払いのような扱いを受けた、その本当の理由を知りたいのです」
パティ「……あの組織を壊滅したのは俺たちじゃない。どこの誰とも知らぬ男。その男は子どもだった。だが俺たちが戦っていたときは子どもじゃなかったんだ。テロリストとも違う。特殊な訓練を受けた、そう、殺し屋だ。ドイツ系かロシア系か……なのに、ソイツは死んだと同時に日本人の子どもに変わっていた。ウソはついていない」
バニラ「……理解が追いつきません……」
パティ「軍の上層部にも同じことを言われたよ。仲間を失ったことで錯乱を起こして、意味不明な発言をしてるとな。黙ってりゃヒーローのままだったが、死んだ仲間たちのことを考えると、真実を隠すことはできなかった。その上、民間人の子どもを撃ち殺したとなったら、除隊させる理由としては充分だよな」
バニラ「あなたの話を信じない人は多いと思います。ですが私は、この一件には何か裏があると思って調査を始めました。もっと詳しく聞かせてください」
パティ「そう言ってもらえると、少しは救われるよ。中に入りな。ルイボスティーでも飲みながら話そうか」
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