コックリ暗殺(全3話)
コックリ暗殺①
若手爆弾魔として裏社会で知名度を上げている女子高生・シゲミ。彼女が初めて幽霊の殺し方を実の母から教わったのは14年前、3歳のときだ。
シゲミの母「幽霊は人間や動物の負の感情によって生まれた、一種のエネルギー体です。直接触ることはできないけれど、確実に存在している。そんな幽霊を殺すには、どうすればいいでしょう?」
シゲミ「分からんぞ、母上」
シゲミの母「膨大なエネルギーをぶつけることです。幽霊は自分より大きなエネルギーの前には無力。霧散してしまいます。おしゃべり声が電車の走行音にかき消されてしまうのと同じです。つまり音、光、熱……こういったエネルギーを大量に発生させてぶつけることこそ、幽霊暗殺の極意。シゲミ、あなたも将来、家業を継いで幽霊暗殺者になるのです」
シゲミ「いいだろう」
この日からシゲミは、瞬間的に大量の音と光と熱を発生させる爆弾・C-4で幽霊を吹き飛ばす暗殺者になった。
−−−−−−−−−−
カズヒロ、サエ、シゲミ、トシキの4人は、明日から始まる夏休み中に向かう心霊スポットの候補を探していたが、なかなか決まらずにいた。
PM 8:35
外は真っ暗。他の部活はすでに活動を終えて解散しており、校舎には心霊同好会以外に誰もいない。
カズヒロ「全然意見が出ないから、アイツに決めてもらいますかー」
サエ「マジでやるの〜?なんやかんや私、初めてやるんだよね〜。ちょい怖い」
トシキ「でも面白いんじゃないかな?次に行く心霊スポットをコックリに決めてもらうってのは」
神社の鳥居のようなマークと、ひらがな50音、1〜10の数字、「はい」「いいえ」を書いた紙を机に広げ、カズヒロ、サエ、シゲミが紙を囲むように座る。トシキはスマートフォンでの撮影係だ。
サエ「てか、やるならもっと早くにやれば良かったじゃ〜ん。なんでこんな遅くから〜?」
カズヒロ「やっぱ雰囲気が大事でしょー。それに人が多い時間帯だと、コックリの野郎が恥ずかしがって出てこないかもしれないしー」
カズヒロが財布から10円玉を取り出し、紙の鳥居マークの上に置く。3人はそれぞれ右手の人差し指を10円玉に乗せた。降霊術の準備が整った。
カズヒロ「いくぞー、せーの」
カズヒロ・サエ・シゲミ「コックリよ、おおコックリよ、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
ピクリとも動かない10円玉。
カズヒロ「……おーい、コックリー?いるのかー?いないのかー?どっちー?」
サエ「まぁこんなもんっしょ〜。動かなくて当たり前〜」
トシキ「予想はしてたけど、ちょっと寂しいなぁ。せっかくボク、紙作ったのに」
直後、10円玉がゆっくり「はい」に移動した。
サエ「えっ!?うそ〜!?」
トシキ「動いた!いるんだよコックリ!」
カズヒロ「ほんとかー?シゲミが動かしたんじゃないのー?」
シゲミ「別に何もしてないよ」
トシキ「シゲミちゃんは廃墟ごと幽霊を吹き飛ばす、超がつくほどの心霊アンチだからね。そんなくだらないことするわけないよ」
カズヒロ「そうだったなぁー。逆に、そんなシゲミがやってるのに10円玉が動いたってことは、ガチでコックリが来てるってことかー」
トシキ「とにかく、続けてみてよ!」
サエ「じゃあ〜……トシキは何歳までお母さんと一緒にお風呂に入っていたか教えてくださ〜い!」
トシキ「な、なんてこと聞いてんだよ!」
10円玉が10と7の場所に移動して動きを止めた。
カズヒロ「17……?ってお前現役かよー!今だにお風呂は『おかあさんといっしょ』かー?」
トシキ「う、うるさいなぁ!いいだろう!ママの美肌がボクの五感を刺激してくるんだよ!」
サエ「あまり他人の家庭事情に口を挟みたくないけど、トシキって結構アレだね〜。今度からちょっと距離置くわ〜」
トシキ「クソコックリが!恥かかせやがって!」
カズヒロ「それにしてもよー、トシキが今もママと風呂に入ってるなんて誰も知らなかったし、当の本人は撮影してて参加してないし、このコックリ、マジすごくねー?」
シゲミ「本当に呼び出せたみたいね」
サエ「え〜、シゲミがそう言うってことは確定じゃ〜ん。なんか怖くなってきた〜。余計なこと聞かずに、早く次の心スポのおすすめ教えてもらって帰ろうよ〜」
トシキ「余計な質問をしたのはキミだろ!」
カズヒロ「あまりに遅くなると親も心配するしなー。んじゃ、今度行く心霊スポットのおすすめを教えてくださーい」
10円玉が動き始めた。こ、こ。
サエ「ここ〜?」
トシキ「この実験室ってこと?心霊スポットだったの?」
カズヒロ「いやー、そんな話聞いたことないぜー」
さらに10円玉が動く。お、ま、え、ら、は、て、ら、れ、な、い。
サエ「え〜?何これ〜?」
トシキ「なんだろ……?『おまえらは』……う〜ん」
カズヒロ「濁点をつけると意味が分かるんじゃね?つまり……『おまえらはでられない』かな?」
???「その通り……」
低くかすれた声が、実験室内に響いた。そして天井の蛍光灯が音を立てて次々に割れ、ガラスの雨が4人に降り注ぐ。室内を照らすのは、窓から入るわずかな月明かりのみとなった。
10円玉から指を離すカズヒロ、サエ、シゲミ。トシキはスマートフォンで室内の撮影を続ける。
紙の上に、体が透き通っている空気のようなキツネが現れた。
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