The Prey④

男が人狼と呼んだそれは両手を床につくと、雄叫びをあげ、跳び箱を飛ぶ要領でジャンゴに突進してきた。ギリギリのところでかわすジャンゴ。そしてすれ違いざまに、人狼の脇腹に弾丸を1発見舞った。弾丸が当たった瞬間にキャオンッと高い声を出した人狼だが、ひるむ様子はない。体勢を立て直すと、再びジャンゴめがけて飛びかかった。


ジャンゴは長年の戦闘経験から状況を把握した。自分は人狼という捕食者の獲物になっているのだと。


ジャンゴ「犬っころが!俺が食わせてやれるのは鉛玉だけだぞ!」


男「ほ、報告にあった凄腕の賞金稼ぎと、生物兵器・・・・のデスマッチ!せ、戦闘データを取るのなんて、ほっぽり出して、ただ観戦だけしてぇなぁ〜!」


人狼の猛攻をすんでのところでかわし続けるジャンゴ。だが、徐々に体力が削れ、足が重くなる。一方、ジャンゴが放つ弾丸は人狼に軽々と避けられてしまう。体力も瞬発力も、圧倒的に人狼のほうが上。しかも人狼は拳銃がどういう武器かを理解し、戦い方も身に付けている。


男「ど、どこまで保つかなぁ〜?ちなみに人狼は、み、三日三晩でも戦えるぜぇ〜!」


ジャンゴは左手に持ったランプを床に投げつけた。ランプの中のオイルが漏れて、大きく燃え上がる。銃に弾を込め直すには、ランプが邪魔だった。人狼から大きく距離を取り、走りながら排莢、新しい弾丸を装填する。


唸り声をあげつつ身を屈め、ジャンゴに狙いを定める人狼。距離がある状態では、ジャンゴの放つ弾丸は全て人狼に避けられてしまう。確実に当てるには、最初の1発目のようにすれ違いざまを狙うしかない。


ジャンゴは足を止めた。


男「あれれ〜?あきらめた?こんな早く試合終了なんて、観戦料金を返してほしいなぁ〜って、は、払ってねぇか〜!」


人狼が床を蹴り、再びジャンゴに飛び掛かる。ジャンゴは最後の体力を振り絞り、人狼の攻撃をかわした。その瞬間、ジャンゴは右手の人差し指で引き金を引いたまま、左手で撃鉄を6回倒し、装填された6発の弾丸全てを人狼の背中に撃ち込んだ。人間なら、心臓がある位置だ。


突っ込んだ勢いのまま倒れ、ジャンゴが落ちてきた穴の真下で動かなくなる人狼。


男「お、おいどうした人狼?おい!おい!」


男が何度呼びかけても、人狼は反応しない。ジャンゴは弾丸をリロードしながら人狼に近づき、かたわらに立つと、頭部に向けて3発発砲。そのまま上を向き、男に銃口を向けた。



−−−−−−−−−−



翌朝

ストロベリータウンの保安官詰め所。


机に両足を乗せ、新聞を読みながらミルクを飲んでいる保安官。何者かの気配を感じ、視線を新聞からそらすと、目の前にジャンゴが立っていた。保安官は驚きの声を上げながら、足を机から下ろす。


保安官「ジャ、ジャンゴ!無事に帰ったのか!どうだった?」


ジャンゴ「アンタの言った通り、あの城に侵入した者はみんな殺されてた。でも、もう収まるだろう」


保安官「……そうか!いやぁ、私の目に狂いはなかった!お前さんならやってくれると思ったよ!」


ジャンゴは何かが入ったズタ袋を机の上に放り、拳銃を保安官に向け、撃鉄を下ろした。


ジャンゴ「開けろ」


保安官は言われるがまま、恐る恐る、袋の口を縛っている紐を解く。中には人狼と男の首が入っていた。


ジャンゴ「このバケモノを飼育していた男は、俺のことをあらかじめ知っていたようだ。そして戦闘データを取るだの何だのと言っていた。保安官、アンタ、内通していたな?」


保安官「……ま、町の平和を守るためだ……お前のような、ならず者にいつまでも治安を守らせていては、私のメンツに関わる!犯罪者に対する新しい抑止力が必要だった!だから」


ジャンゴ「だから廃墟で人体実験を行い、生物兵器を開発していた。で、肝試しに来た連中も、アンタの部下たちも、俺も、その生物兵器のスパーリング相手にされたわけだ?」


ジャンゴはコートの内側から丸めた紙の束を取り出し、机にバラバラと広げた。紙には、攻撃を加えてくる人間に対して人狼がどのように対処し、どのように殺したのか、細かく記述されている。


保安官「……ど、どうかこのことは内密に……」


ジャンゴ「明るみにするつもりはない。だが約束は守ってもらう。俺を牢屋に入れて、養い続けろ。だが俺の飼育員はアンタじゃない」


ジャンゴは引き金を引いた。


<The Prey-完->

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