The Prey(全4話)

The Prey①

1887年アメリカ


無法者がはびこり、民間人でさえ武装しなければならなかったこの時代において、小さな町・ストロベリータウンが平和を保てている理由は、賞金稼ぎジャンゴ=グレイブスが暮らしているからだろう。分かっているだけで158人の賞金首を射殺してきた。そんな男が暮らす町を好んで襲撃する者はいない。


では、ジャンゴが正義の味方かというと違う。金さえもらえれば罪のない子どもや聖職者でさえ殺しの対象にする。ストロベリータウンの住民たちは、今の暮らしがあるのはジャンゴのおかげと分かっていながらも、彼を危険視していた。


そして10日前、住民たちの不安はピークに達する。ジャンゴはバーで因縁をつけてきた酔っ払いの眉間を撃ち抜いたのだ。ジャンゴは気に食わない人間がいれば、金をもらえなくても殺す。この件でジャンゴの逮捕を望む住民の声が大きくなり、保安官は身柄確保に踏み切ることに。激しい銃撃戦の末、ジャンゴはお縄についた。現在は保安官詰め所内の牢屋で暮らしている。


ベッドで仰向けになり、天井を眺ていめるだけで終わる日々。多くの者にとって苦痛を覚えるほど退屈だろう。しかしジャンゴは、こんな生活も悪くないと感じていた。10歳の頃、父と母が病で死亡し、己の力だけで生きていくことを迫られたジャンゴ。生活費を得るために思いついたのが、賞金首を殺すこと。以来27年、毎日のように賞金首を追いかけ続けてきた。一方で、どこにいるかも分からない賞金首を探して各地を放浪する生活は、歳を重ねるごとに厳しくなっていた。


しかし牢屋の中なら雨風をしのげ、日に3回の食事が提供される。賞金首を殺して生活費を稼がなくても生きていける。もっと早くにこんな生活が送れていれば……そう考えていたジャンゴにとっての「平穏」が、この日、幕を下ろすことになる。


白いテンガロンハットを被った中年太りの男性保安官が、牢屋の前にやって来た。保安官は鍵を開け、牢屋の出入口を開ける。


保安官「ジャンゴ、出ろ」


ジャンゴ「……なぜだ?アンタが俺を捕まえたんだろ?」


保安官「ある仕事を依頼したいのだ」


ジャンゴ「……断ると言ったら?」


保安官「この場で撃ち殺そう。私が知る中でお前さんより腕の立つガンマンはいないが、今のお前さんは丸腰だ。一介の保安官に過ぎない私でも、イモムシを潰すより簡単に殺せる」


保安官は右腰に下げた拳銃、コルト・シングルアクションアーミーのホルスターを触る。


保安官「もちろんタダでとは言わない。もし成功すれば釈放しよう。どうだ?悪くない話だろう?」


ジャンゴ「逆だ。もしその仕事が成功したら、この牢屋に死ぬまでいさせろ。ここの生活は気に入っている。これならアンタは仕事を達成でき、俺を捕らえ続けられ、住民どもの安寧も守られる。悪いは話ではないと思うが?」


保安官「牢屋暮らしを望むか。変わったヤツだ。いいだろう。私に断る理由はない」


ジャンゴ「で、仕事というのは?」


保安官「この町から馬で1時間ほど北上すると、巨大な城があるのは知っているか?」


ジャンゴ「どこかの地主が住んでいた城だな。5年ほど前に盗賊団に襲撃され、今は廃墟だと聞くが」


保安官「最近は『悪魔の城』なんて呼ばれ、若いカウボーイどもの間で肝を試す場所として人気らしい。それはいいのだが、城に入った者が全員、行方不明になっている」


ジャンゴ「その調査を俺にしろと?アンタのご自慢の部下たちを向かわせたらどうだ?」


保安官「優秀なのはお前さんがみんな撃ち殺しちまったよ。もちろん他の部下も向かわせたが、やはり戻って来ないのだ。何者かが城に潜み、侵入した者を殺している可能性が高い。そこでお前さんに行ってほしい。私が知る中で一番のガンマンである、お前さんにな」


ジャンゴ「おだてるねぇ……」

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