命の痕②

「左手は使えなくなりましたが、これで死ぬことはないだろう。そう思っていたんです。けれど翌朝、今度は右の手首に注射痕ができました。腕を切り落としただけじゃ、終わらなかったんですよね。そりゃそうですよね。44人分の命が、腕一本の犠牲で釣り合うわけがない」


球子は右の手首を机の上に置いた。手首に注射痕が4つ、縦に並んでいる。


「左腕がなければ、右腕は切り落とせません。もうそんなことじゃどうしようもないほど、強い怨念なんだって、覚悟しています。きっと私が罪を認めて、残りの人生をかけて償わなければならないんだろうって。だから出頭しました。刑事さん、早めに裁判をしてもらえますか?たぶん私は、あと40日で死にます」



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球子が殺したと自白した人物たちは、全て病死か自然死として警察に処理され、事件性はないと判断されていた。球子と犠牲者たちとのSNSでのやり取りは全て捨てアカで行われており、アカウントはすでに削除済みで、運営元でさえ復旧できないとのこと。


犠牲者は、年齢も性別も居住地も殺害された時期もバラバラ。もし球子が出頭しなければ、連続殺人事件だと誰も疑いすらしなかっただろう。


しかし、球子の発言は信憑性が高いと検察が認め、立件した。その理由は、注射痕。拘置所の中でも球子の腕に注射痕が自然発生し続けたのである。長い裁判の結果、球子に無期懲役の刑が科せられた。


注射痕の数が44個に達しても、球子の命は尽きることはなかった。判決から十数年経った現在、彼女の体表の7割以上を赤紫色のアザが覆っている。


今日もまた1つ増えた。


<命の痕-完->

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