呪い代行の代行(全3話)

呪い代行の代行①

雑居ビルが立ち並ぶ深夜の繁華街。その路地裏で2人の男が会話をしている。1人はスキンヘッドで小太り、お坊さんが着ている袈裟を身にまとった男。名前は熊山 銅三くまやま どうぞう、46歳。もう1人は黒いニット帽に上は青、下は黒のジャージを着た華奢な男。名前は熊山 鉄実くまやま てつみ、43歳。兄弟である。


鉄実「なんでそんな案件引き受けたんだよ!」


鉄実は周りに響かないよう、小声ながらも強い口調で兄を責める。


銅三「成功すれば20億だぞ!こんな話をみすみす逃すバカがいるか!」


2人は『呪い代行業者』として生計を立てている。が、呪いなんて実際にやってはいない。インターネットで依頼してきた人物と兄・銅三が対面し、呪い殺したい人物の名前と顔写真をもらう。スキンヘッドで恰幅の良い銅三が袈裟を着て、適当な念仏の一つでも唱えれば、呪術を身に付けた神職そのものだ。依頼人も信じてしまう。


そして依頼人から得た情報を元にターゲットを探し出し、弟・鉄実が自殺や事故死に見せかけて殺す。この方法で過去83人の命を奪った。『呪い代行』とは名ばかりで、その実態は殺し屋と変わりない。


なぜわざわざ『呪い代行』なんて回りくどい方法で客を集めているのか。理由は簡単で、そのほうが気軽に依頼できると感じる客が多いからだ。殺し屋に依頼すれば、もし事件が発覚したとき依頼人も共犯として扱われる可能性が高い。しかし呪い殺すとなれば話は別。銅三と鉄実は「名前と顔写真さえあれば、念じるだけで1週間以内に呪い殺せる」という売文句で客を集めている。呪う行為と人が死ぬことの因果関係が証明できなければ、発覚してもまず罪には問われない。実際は鉄実が暗殺しているのだが、客はその事実を知らないし、念じるだけで人が死ぬことを証明する方法は現状存在しない。だから『呪い代行』と銘打ったほうが客の心理的ハードルが下がり、依頼も増えやすくなるのである。


鉄実「よりにもよってFOXフォックスを始末する依頼を受けちまうなんて……ターゲットを24時間以内に必ず仕留める世界一の殺し屋だぞ!そんなヤツ、仮に見つけられたとしても俺が殺せるわけがない!兄貴、この案件は断ろう!」


銅三「もう金は受け取っちまったし、『もし失敗すれば殺す』と依頼人から脅されている。後戻りはできん!」


鉄実「クソッ!てか、なんでそいつら、俺たちに依頼してきたんだよ!FOXを狙ってる連中なんてどうせカタギじゃないだろ!自分でやれよ自分で!」


銅三「FOXには何度も殺し屋を送ったが、誰も生きて帰って来なかったらしい……だから呪いだの、超能力だのに頼るしかなかったんだろうな」


鉄実「とにかく俺は絶対にやらない!もしやるなら兄貴一人でやれよ!報酬の分け前はいらないから!」


銅三「待て待て待て待て待て!ワシがなんの考えもなく無茶な依頼を引き受けたと思うか?」


鉄実「どういうことだよ?」


銅三「これからワシらは本当の呪い代行業者になる。いや、呪い代行をさらに代行してくれる者に依頼し、呪殺じゅさつを成功させるのだ」

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