ロンドン忍者鬼行③
男の右手には、わずかな明かりを反射する細長い金属。そして左手で、先ほどピーターが話を盗み聞きしていた細身の警官の切断した頭部を鷲掴みにしている。間違いなくターゲットの殺人鬼だ。
ピーターは背中の刀を鞘から抜き、地面を蹴って大きく飛び上がると、上空から縦一直線に刀を振り下ろし、男に斬りかかった。男は左手に持った頭で、ピーターの斬撃を受け止める。刃が頭の半分ほどまでめり込んだ。
男「汝も我が渇きを満たす
ピーター「日本語?師匠の言った通り、刀に取り憑いた悪霊に乗っ取られている様だな」
ピーターは頭にめり込んだ刃を引き抜き、男から7歩下がる。そして刀を両手で構え直し、目にも止まらぬスピードで男に突っ込んでいった。
男は右手だけで刀を振り、ピーターの斬撃を受け止める。立て続けにあらゆる角度から斬りかかるピーターだったが、男はすべて、片手で握った刀で捌ききった。
ピーターはバック宙をしながら男から距離を取る。
男「強き者……我が贄にふさわしき者……」
ピーター「ボクの剣術がただの借金取りに遅れをとるはずがない。刀に取り憑いた悪霊の力か。師匠は言ってなかったけどあの悪霊、ジャパンの戦国時代か何かに実戦経験を積みまくったサムライの霊だろう」
男は左手を一瞬だけ背中側に回すと、まっすぐ前に伸ばした。手には大型の自動式拳銃が握られている。銃声が3回鳴り響く。ピーターはギリギリでかわし木の影に隠れたが、1発が右肩をかすめた。
男「我が秘技……デザートイーグルなり……」
ピーター「デザートイーグルを使うサムライなんて聞いたことないぞ!
男はピーターが隠れる木に向かって繰り返し発砲を続ける。弾丸により木がどんどん抉れる。
ピーター「この木はもう保たないな」
弾が切れ、銃撃が止んだ。この瞬間を見逃さず、ピーターは木の影を飛び出し、他の木陰へと移動する。ピーターの移動速度は、常人では肉眼で捉えられないほど速い。しかし男はゆっくりとした足取りで、確実にピーターを追跡した。右肩から腕を伝い、地面に流れる血が道標となり、男をピーターの元へ案内してしまう。それでもピーターは男からなるべく距離を置くために、また別の木陰へ移動した。
男「逃走は無意味……汝の命は我が手に……」
ピーター「もう少し、もう少し引きつけろ……」
男がピーターの隠れる木の目の前に立った。
ピーター「
ピーターは左手を大きく横に薙いだ。指先から伸びたワイヤーが一気に収縮し、男の体に絡みつく。男は大の字の状態で、地面からから30cmほど宙に浮いたまま、糸が絡まった操り人形のように動きを止めた。絡まったワイヤーにより、男は宙吊りになった。
ピーターは木の影から出て、男の目前に立つ。
ピーター「お命、頂戴いたす」
刀を振り下ろし、男の首を切断した。
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AM 10:15
ある港
ピーターと師匠が、海に向かって横並びに立っている。
軍手をはめたピーターは、両腕で名刀・乳房を抱えていた。鞘に収められた乳房には、レンガが1つ、縄でくくり付けられている。
師匠「本当に沈めてしまうのか?その刀は、売れば30万ポンドは下らないのに……必死の思いで、ワシの師から盗み出してきたのに……」
ピーター「師匠、この刀は誰の手にも触れさせてはいけません。人の手が届かないところに葬るべきです」
師匠「でも触らなければ悪霊に取り憑かれることもないし、軍手をつけていれば触っても大丈夫じゃし、別に深海に沈めなくて、ガレージに置いておけばいいじゃないか……」
ピーター「本当の意味でこの刀に取り憑かれていたのは師匠、あなただったみたいですね」
ピーターは乳房を海へ投げる。師匠が「あっ」という声をあげたが、ピーターは止めなかった。
これで二度と、名刀・乳房が世に出回ることはないだろう。きっと。
<ロンドン忍者鬼行-完->
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