廃墟暗殺②
4人は最上階の3階に到着した。最初に入ったのは音楽室。古びたグランドピアノが一台ポツンと置いてある、殺風景な部屋だ。
トシキ「ピアノは運び出せなかったのかもね」
カズヒロ「音楽室にピアノかー。このシチュエーションは怪談話の定番だよなー。夜中に誰もない音楽室で、誰かが演奏するピアノの音が聞こえるみたいな」
サエ「ベタ過ぎ〜。もし本当に起きたとしても『だから?』って感じだわ」
サエがそう言い終わった直後、グランドピアノが床を勢いよく滑り、まるで動物園のゴリラが檻に体当たりするかのようにサエにぶつかった。サエは3〜4メートルほど弾き飛ばされ、音楽室の壁に体をぶつける。
サエ「ぐはっ!」
シゲミ「サエちゃん!!」
カズヒロ「おい大丈夫かよー!?」
トシキ「だ、誰も押してないよ!勝手に動いた!」
サエは胸を両手で抑えながら、よろよろと壁から離れる。
サエ「アバラ5〜6本イったかも……」
トシキ「だとしたら喋れないだろうから、大丈夫そうだね」
サエ「てかどゆこと?アタシがベタとか言ったから、幽霊が物理的に黙らせようとしたってわけぇ〜?」
カズヒロ「そうじゃねー?で、トシキよー、今の撮ったかー?」
トシキ「撮ったけど、あれくらいのことは人間の力でもできるからなぁ……ヤラセって言われたら、否定できないよ」
サエ「アタシが身を挺したってのに、最悪だし〜」
カズヒロ「まぁ次だなー、次」
シゲミは一人でに動いたグランドピアノの裏側をじっと観察する。
カズヒロ「シゲミーどうした?ピアノ動かした犯人でもいたかー?」
シゲミ「別に何も」
4人は音楽室を後にした。
−−−−−−−−−−
その後3階で霊障に見舞われることはなく、2階もすべての教室を回ったが暗くて不気味なだけで平穏。後回しにしていた1階でも特に何も起きず。残す探索場所は4人が入ってきた昇降口近くのトイレだけとなった。
廊下の一部がトイレになっており、正面から見て右側が男子トイレ、左側が女子トイレだ。カズヒロを先頭に、女子トイレに入る4人。中は縦長の作りで、入口の近くに洗面台が3つ、奥の方に個室が5つ並んでいる。
カズヒロ「やっぱ学校の怪談といったら女子トイレだよなー」
サエ「アンタさっきからベタ過ぎじゃな〜い?」
カズヒロ「おいサエ、反省してないみたいだなー?幽霊さーん?この子まだお仕置きが足りないってー!」
サエ「マジやめろし〜!次は殺されっかもしれないじゃ〜ん!」
トシキ「でも撮れ高が必要だしなぁ」
サエ「はぁ〜?ふざけんな〜このデバガメ野郎!」
カズヒロ「幽霊さーん!早くー!幽霊さーん?」
サエ「もういいって〜」
カズヒロ「幽霊さーん!?幽霊さーん!?」
トシキ「カズヒロ、もうやめてあげなよ」
カズヒロ「幽霊さーん!幽霊さーん!幽霊幽霊幽霊さーん!幽霊さーん!幽霊さーん!幽霊幽霊幽霊さーん!ゆ幽霊さ幽ん霊ゆされ幽霊霊ゆーん!さ幽ささ霊ん!」
サエ「カズヒロ?ねぇ?」
カズヒロの黒目が徐々に上まぶたの中に消えていき、白目を剥く。
トシキ「な、なんだよ!?カズヒロ!どうした!?」
カズヒロ「霊んさ!幽ん霊ゆん霊幽!ー霊んさ霊幽んさんゆ霊ゆれ霊さんゆー幽んさ霊んゆー!」
シゲミが左足でカズヒロの頭に上段蹴りを見舞った。蹴られた勢いで女子トイレの個室の扉にぶつかり、ワンバウンドして床に倒れたカズヒロ。そしてゆっくりと立ち上がる。
カズヒロ「あれー?俺寝てたー?しばらく記憶がないんだけどー?」
サエ「いやアンタ、なんかラリってたよ〜」
トシキ「まさか……憑依されてた……?」
シゲミ「ここ、ちょっとヤバイかもね」
シゲミの一言は、3人にとって重みがあった。今までどこの廃墟に行っても眉一つ動かさなかったシゲミがヤバイと言うのだから、よっぽどなのだろう。
シゲミ「トシキくん、サエちゃん、カズヒロくん……順番的に次は私か。みんな先に外出てて。ちょっとやることがあるから」
カズヒロ「えっ?なんかシゲミ珍しい……そこまで言うならなぁー」
サエ「じゃあ先に出てるよ〜。早く戻ってきてねぇ〜」
トシキ「シゲミちゃん、何かあったらボクの代わりに撮影お願いね!」
3人はシゲミを残し、女子トイレを出る。入れ替わるように、女子トイレの入口から見て最奥の個室の扉がギギギと音を立てながらゆっくり開いた。一人、扉を見つめるシゲミ。
個室の中から、学ランを着た中学3年生くらいの若い男が現れた。
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