最終話 後日談

 真壁綺麗の攻略に成功し、榊原と国枝はビルの屋上からせっせこ働く真壁を眺めていた。


「まさか上手くいくとは……こうなること分かってたのか、国枝?」


「まぁ、はい。柏木の力ってその界隈では最強ですからね」


 真壁を現実に戻せたことに驚く榊原。そしてこの結果を予期していた国枝。

 柏木の一つの行動が真壁がゲームを嫌になるきっかけを作るとは柏木本人すら分かっていなかった。


「柏木はあのことは?」


「知りませんよ。教える気も無いですし」


 柏木が知らないあのこと……




 柏木の日記は8ちゃんねるのスレッドとして投稿されていたということ。


 柏木はハンドルネーム、(柏木)で知らないうちに自分の日記を8ちゃんねるに公開していたのだ。

 そんな馬鹿なことがあり得るのかと思うかもしれないが、柏木は極度のパソコン音痴。

 ワードか何かと勘違いして日記を書いて8ちゃんねるにスレ立てしてたのだ。


「そんなことあるんだな」


「俺もあいつのパソコン直す機会が無かったら知りませんでしたよ」


「柏木を見つけたのは念の為じゃないんだな?」


「はい……たまたま一緒に働いてただけです」


 何事にも念の為と行動していた国枝だが、柏木との出会いは本当にたまたま。だいぶ前にパソコンを直してやる際、その日記に気づいて、本名で投稿してるのは可哀想だと思い、国枝はハンドルネームを点の部分だけ除いた(T日T)に変えておいたのだった。


「変えて無かったら危なかったですよ。尾上の件であいつが神扱いされるようになるとは思って無かったですから」


 国枝は5年前の話を榊原にする。


 柏木が5年前に(T日T)というハンドルネームで投稿された日記は、8ちゃんねる住人が(T日T)を神、預言者と騒ぎ立てるほどのものだったのだ。


 その内容はヤングジェネシスの襲撃場所の予測地点。


 柏木はヤングジェネシスに狙われそうな場所などを日記で書いていたのだった。そしてまさかの日記に書いてあったことがそのまま起こってしまったのだ。尾上と年も近いせいか、尾上が狙う大人と柏木が思う狙われそうな大人が合致したのだった。


 つまり、尾上の計画が頓挫したのは、実は柏木の趣味である日記によるものだったのだ。


「あいつ、尾上のこと嫌ってますけど、多分思考は一緒なんでしょう。実は尾上を押さえ込む力を自分が持ってるなんて思って無いんでしょ」


「言ってやればいいのに、日記のこと」


「いや、言ったらあいつ、日記書くの辞めますよ」


 柏木とは長い付き合いの国枝だから分かる。もし自分の日記が8ちゃんねるに投稿されてて、それを信じ切った信者がいることを知れば、目立ちたがりでは無い柏木はすぐに日記を書くのを辞めるであろう。


 もし辞めていたなら今回のゲーム廃人真壁の更生もありえなかったかも知れない。


 今回の柏木の日記を見た8ちゃんねる住人は真壁をキルし続けてゲームから排除することが東京のためになると踏んで、パーティーを組み、ゲーム内で1週間もの間ビューティーだけを狙ったプレイヤーキルが続いたのだった。


 イベントに参加したかった真壁は1週間ただフィールドにでてキルされるということを繰り返し、VRMMOの世界を嫌いになってしまったのだ。


 そして8ちゃんねらーの襲撃は尾上たちの仕事もやりやすくする要因であったのだ。


 一緒にいたアイラという魔法使いは、実は真壁がよく指名するキャバクラのお姉さんだった。

 プレイヤーキルを体験したアイラはゲームが怖くなり、即VRMMOを辞めてしまったのだ。

 そこに尾上は目をつけ、真壁に


「アイラさんとデートできないならゲームしてる意味あります?。ちゃんと働いて、金稼いで、リアルでキャバクラ行った方がいいですよ」


 と真壁に現実味のある話が出来たのだ。


 それも相まって、真壁はゲームを辞め、せっせこ働き出したのだ。


 知らず知らずのうちにチームプレイが出来ていたVRMMO対策課だったが、本人たちはそんなこと知らないから一週間喧嘩しっぱなしであった。


「真壁が働くってなるまではあいつらの方が大変でした」


「そこは上手くやってくれ。あ、あいつら来たな」


 ビルの屋上から見えた、ビル入り口に止まるタクシー。そこからいつものVRMMO対策課のメンバーが降りてくるのを確認する。


「さぁ、今日もやるか対策会議」


「ちなみに今日のターゲットは?」


「内閣総理大臣」


「え?」


 榊原の言う人物に驚く国枝。

 そんなゲーム廃人になった総理大臣なんて辞めさせろよと思いながら国枝は柏木たちが来る部屋まで足を運ぶ。


「タクシー代は国持ちだろうな?」


「原島くん、お金にうるさいですね。タクシー代ぐらい出せるでしょ」


「お前が言うな!。タクシー代出したの俺!」


 原島、尾上、柏木はいつものように騒ぎあっている。


 そこに国枝と榊原も合流し、榊原から今回の仕事内容が言い渡される。

 今回は国枝も柏木、尾上、原島と同じ意見だろうと思い、四人揃って言葉を発する。


「「「「そんな大臣辞めさせろ!」」」」


「そ、そんな〜」


 今日も1日榊原にツッコむところから始まる、賑やかおじさんしかいないVRMMO対策課であった。

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遊びじゃないよ、仕事だよ!VRMMO対策課のお宅訪問ゲーム鑑賞録〜バーチャルでなくリアルを生きろ!〜 ゴシ @54540054

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