呪われ剣士は剣を持てない

のり塩

プロローグ 無法都市レークス

「気が抜けとる!遊びにうつつを抜かしておるからだ、たわけが。わしが戻るまでそこの蔵の掃除でもしておけ」

 痛ってぇ。舐めて掛かったけどあのジジイ、寸止め甘くしやがって。今どき素面素籠手でその上、木刀で剣術指南とかほぼ虐待だろ。


 クッソ、掃除しねえと何してくるかわかんねえしな。俺が物心ついた時から剣術を叩き込まれてたけど、あのジジイ怖ぇからな。朝帰りしたら木刀突きつけて道場直行、稽古という名のシゴキ。あーおっかね。


 裏の蔵とかちっちゃい頃に遊びで入った以来だな。結構綺麗じゃねえか、ジジイこまめに掃除してたんだな。なんかお宝でもないか探すか、なんか面白いもんくらいあるだろ。


 棚を漁ってもよく分からん書物が出るだけだな、後はこの棚くらいか。えーっと何だこの刀、わざわざ棚の中に閉まってあるけどなんか特別なんか?


 いや鞘があるけど、ただの木刀かよ。期待して損したわ。刀身の根元に『無刃むじん』ってそれらしく書いてあるけど、木刀なんだから当たり前だろ。


 丁度いいしこれ貰ってくか、掃除の報酬って事で。にしても綺麗な木刀だな、手に馴染む。結構振りやす…


 振り上げた木刀に雷が落ちた。轟音と衝撃、それに右腕に電流が走り焼ける痛み。クッソ痛え、声も出ない。目の前が一瞬光に包まれたと思ったら、俺はどうなっちまったんだ?


 夢でも見てんのか?蔵のある庭に居たはずなんだけどな、どこだよここ。てか『無刃』の木刀が落ちてる。なんでこの木刀を持ってんだ、俺?ってか右腕、ひでぇ火傷になってんじゃねえかよ!稲妻みたいな樹状の火傷がジンジンして痛え。


「坊主、大丈夫か?すごい音と光だったぞ」

 白髪混じりでキレイめなスーツのじいさん、老紳士ってやつか。洒落た格好してんな。


「全然大丈夫じゃねえよ」

「意識はしっかりしてそうだな、だがこんな所で騒ぎを起こしたら獣連中が来るぞ」

 獣連中?何言ってんだ、こいつ。てかここ臭せぇし、ここは錆びれた裏路地か?


「何訳わかんねぇ事言ってんだ、獣連中ってなんだよ」

「ここは無法都市レークスの西側だぞ、お前さんよそ者か」

「レークス?そんな街知らねえよ」

 このじいさん何言ってんだよ。レークスなんて街、聞いた事ねえよ。


「お前、レークスを知らないのか。説明する時間はないな、奴らが来た。武器を取れ、やり合うことになる」

「武器なんて持ってねえよ」

「その木刀はお前さんのだろう」

 クッソ痛えから木刀なんか持ちたくねえ。でも持たねえとヤバそうだ、3人?いや3匹か?俺らを囲んでやがる。


「ジジイとクソガキか。ここで何をしてたかわかんねえが、ここで死んでもらう」

 くっそ物騒なこと言ってるけど、目がガチだな。全員剣を抜いてやがるし。


「おいじいさん、こいつらをぶっ飛ばしていいのか?」

「ここは力が法だ、来るぞ」

 こいつらやべえな。でも俺がどこまで通用するか試してやる。右腕痛えけどやってみるしかねえな。やるだけやってやるよ!


 俺は木刀を正眼に構え、俺たちに1匹ずつ襲いかかってくる。大振りを木刀で受け止めて、鍔迫り合いに持っていく。剣の刃が顔の側にあるが鍔迫り合いから押し返し、体勢が崩れた所に踏み込み袈裟斬りを叩き込む。肩にめり込んだな、クッソ痛そうだ。ざまあみろ。


 1匹は倒したけど、もう1匹が正面から来てやがる。こっちは訳もわかんねえ事に巻き込まれてイライラすんだよ。足で腹に前蹴りを入れ突き放し、喉元に一気に突く。クソッ避けんなや。


「坊主よくやった」

「あ?まだ終わってねえ…」

 俺の横を何が通り過ぎて、最後の1匹の脳天にナイフが突き刺さった。このじいさん怖ぇな、何者だよ。ジジイの剣技と比べたら獣共はあまり怖くないけど、このじいさんは別格だな。


「大丈夫か?右腕が痛々しいぞ」

「痛えけど問題ねえよ」

 右腕を無茶に使ったから火傷の傷から血が垂れてるけど、とにかく助かったな。

「坊主、着いてこい。次の奴らが来る前にここを離れるぞ」

「あ、ああ」


 じいさんの後に着いていくが、このじいさんまじで何者なんだ。人通りのある道を通ったり、裏道を通ったり徹底してやがる。


 にしてもやべぇ街だな。生きてんのか死んでんのか道で倒れてる人がちらほらいるし、クスリでキマってる奴もいる。普通に腰に剣をぶら下げてるのも有り得ねえんだよな。


「ここが私の店だ。遠慮せず入りな、ここには酒くらいしかないけれどな」

 店の中は古いバー、いや酒場か。結構落ち着いた雰囲気だ。

「坊主、お前さん酒は飲めるか?」

「いいのか?金はないぞ」

「なら適当に出してやる。その前に腕の手当をしないとな」


 右腕の傷に薬草らしき物を塗りたくられ、包帯でぐるぐる巻きにされた。なんかピリピリするけど、痛みも和らいできたな。

「なあじいさん、あんた何者だ?」

「私はアラン、しがないバーテンだよ」

「バーテンねぇ、その強さでか?」

「この街に入れば嫌でも力が着く、お前さんは何者だい、よそ者だろう?」

「俺はリョウ、日本ってとこからいきなりこの街に飛ばされてきたんだ」

「ニホン?聞いた事ないな、そんな所からここに飛ばされたと」

「ああそうだ。なんでここにいんだろうな」


 俺は蔵で掃除してよくわからんこの木刀を振っただけなんだけどな。それに右腕が焼けるように痛えし。

「まあ、1杯やろうか。行く宛てもないんだろう?」

「ありがとよ、それと灰皿も貰えるか?」

「ほう、随分落ち着いてるようだな」

「そうでもねえよ。訳わかんねえ事だらけだからよ、タバコでも吸わないとやってらんねえんだよ」


 酒の匂いと煙草の紫煙が漂い、気だるい雰囲気。痛みも少し落ち着いてきたな。

「なあじいさん、俺はなんでここに飛ばされたんだろうな」

「さあな、私も分からないさ。ただ言えることはここは無法都市レークスだ。法も秩序も存在しない街だよ。リョウ、君も見ただろう?この街がどんな風かがね」

「見たさ、見慣れない嫌な光景だったよ」


 気分の良いもんじゃなかったな、酒が不味くなる。タバコを深く吸いタバコの火を灰皿に強く押し付けた。

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呪われ剣士は剣を持てない のり塩 @tanoshin0205

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