終章 - 自救 -
数日後、ヤムトたちはある村を見つけた。
北の土地ではよくある、薄灰色の曇天の下での到着だった。
そんな昏い空と同じように、村の雰囲気も沈んでいた。
畑仕事をしている人もまばらである。
「何かあったのですか」
タイカが数少ない、畑にいる村人に尋ねる。
タイカの容貌に最初驚いた村人だが、それでも事情を教えてくれた。
「村が北の蛮族に略奪された」
抵抗した村人が何人も殺されたらしい。
親族の多くが、葬儀に出払っている。その為、人がまばらだったのだ。
自分たちも弔いに参加したいと言うタイカの申し出に、村人は墓地のある方を指し示した。
墓地へ向かう。
幾つものを墓穴を囲み、穴に土を掛けている男たち、その前にうずくまる若い女性や子供の姿が見えた。
少し離れた場所に居た老人と、タイカたちの目が合う。
老人が幾分怯えた様子を見せる。
タイカは老人に、自分たちは旅人であり話を聞いて弔いに参加したい旨を告げた。
老人がタイカたちを見つめる。タイカやシュトの容姿に驚きながらも、三人しかいないことや子供連れであることから安心したのだろう、強張った表情を緩めた。
「有難うございます。あの者らは、蛮族に抗って殺されたものたちで」
老人が墓の方を見る。
「ここしばらく見なかったので油断しておりました。村の蓄えや家畜を要求し、それに何人か逆らったのですが、そうしたら奴等はいきなり刃物を抜いて」
あっさりと斬り殺すと、動けない村人を横目に食料や家畜を奪っていったのだと言う。
「まるで、儂らを雑草か何かを引き抜くみたいに殺して」
老人が口を抑えた。背を丸め、慄くように震えている。
シュトが踵を返し、駆け出す。タイカが追いかける。
ヤムトも毛長駝鳥を曳いて、後に続いた。
タイカは、シュトをすぐに捕まえたらしい。その腕を握り、逃れようとするシュトを抑えている。
「放して」
シュトが言う。タイカに対し反抗的な言い方をするなど珍しい、とヤムトは思った。
「あいつらを追いかけて、村のものを」
「これは、この村の問題なんだ」
タイカが言う。鋭くはない、静かな沈んだ声音である。
シュトも暴れるのを止めた。
「私たちは徹底しては関われない。なら彼らの問題は、彼ら自身で対するしかない」
自救。自ら選び、自らを救うべく努めるべし。
タイカは一貫している。シュトのような子供以外は、助け補うことはしても主体は問題を抱える相手自身であるという考えを、タイカは通していた。
シュトもそれは分かっているのだ。その場凌ぎの解決では先々行き詰まる。分かってはいても、許せないこともあるのだろう。
ヤムトも、感情ではシュトにこそ共感する。ただ、自分は諦めてるのだ、世の中はそういうものだと、冷めた目で見てしまっている。弱い村人たちが虐げられることも、蛮族たちが戦士としての誇りしか考えず、交易などの流血や怨嗟がより少ない道を探ろうともしないことも。
だが、タイカは違うような気がする。諦観ではなく、自らの律に淡々と従っているように見える。
それが、ヤムトには時折気色悪く感じる。
気色。色。
火の赤。土の黄。氷の白藍。髪と瞳の色が《
タイカの黄色い方の瞳にも同じ特徴がある。
そんな普通にはない特性の《
タイカとて表情は変える。だがシュトのように瞳に強い感情の発露はない。色が変わらない。
だから、気色悪く感じる。
ヤムトより付き合いの長いシュトなら、タイカの違う面を知っているかもしれない。だがヤムトは知らない。故にそんな感想しか抱けない。
「村も痛手がありやしょう。こちらの食い物まで分けることは出来やせんが、何か手助け出来るかもしれやせん」
「そうですね。奪われた食料の代わりに周囲の森でまだ手を付けてない、食べられる草葉などで乗り切ることも出来るかもしれません」
ヤムトの提案に、タイカが乗って来た。目が合うと、そっと伏せる。礼を伝えたいのだろう。
あんな目に遭わせたのに、とヤムトは思う。無茶をさせた自覚はある。
人が好いのか、あるいは感覚がずれているのか。
タイカが、老人の方へ戻ろうと足を踏み出す。
ヤムトは複雑な表情を浮かべるシュトの背中を軽く叩き、その後に続いた。
── 第一話 了 ──
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