最終話 物語りの物語
第一章 - 地図 -
ある村での出来事である。
その村では、随分昔だが《物語り》が来た記録があり、怪しまれたり事件に巻き込まれるようなこともなく、数日を過ごすことが出来た。
出立の時、シュトはタイカが村長から何かを貰っているのを見た。
何かの紙片のようだった。
その時のタイカが、見たこともない表情をしていた。
最初は驚き。その後ゆっくりと、優しい顔に変わっていった。穏やかな表情の多いタイカであるが、その時、その表情には哀しみのようなものが含まれているような気がしたのだ。紙片に向ける視線も、紙片ではなく紙片を通して、どこか遠くを見ているようであった。
タイカの横顔が、あまりに切なそうで。
シュトはその時、何も訊くことが出来なかった。
「あれかい。あれは、地図だよ」
それと多少の書置きかな。タイカがつぶやく。
数日後、森の中。焚火を囲んで野営していた時、シュトはタイカに問うてみた。
そのタイカの答えである。
受け取った時の雰囲気から、容易には話してくれまいし、気分を害するかもしれないと考えていた。かなりの決意を以って質問したのだが、あっさりとした返答である。
「どうしたんだい。驚いた顔をして」
タイカに問われ、頬に触れる。何となくヤムトの方を見たが、ヤムトは相棒の毛長駝鳥の側で、こちらに背を向けて横になっていた。寝息も聞こえる。
「あれが気になったのかな」
「いつもと様子が違ったから」
再度、タイカに問われシュトは頷く。あんな顔は見たことがない、とまでは言えないが。
「そうか。なら話しておこうか」
タイカがシュトを見つめる。いつも通り穏やかな表情だが、その視線はシュトというより、その先の別の何かを見ているようだった。
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