第六章 - その男たち -

 気付いた時、テシトは寝台で横になっていた。


 傍らには母が居た。目覚めたテシトは大泣きで抱きしめられた。母の声を聞いて父と、兄も飛び込んできた。

 独りで見に行ったことについては家族全員、特に父が酷く怒り、殴られかけたが負傷していると兄と母が抑えてくれた。


 そしてようやく、前後の話を聞くことが出来た。


 シュトが気配を感じ木戸を開けた時、テシトを担ぎ森に逃げる男たちを目撃したこと。

 シュトはテシトを追い、テシトの悲鳴を聞いたタイカも後に続いたこと。

 テシトが気絶した後、シュトが応急処置をしてくれたこと。

 逃げた男は、タイカが捕らえたこと。

 そして男たちの正体。


 男たちは、北の蛮族の追放者だった。


 北の蛮族。氷の精霊を崇める部族で、狩猟や略奪で生活しているという。

 風聞だけで、見たことはない。村長たちも同様だった。

 なぜ追放されたかまでは聞き取れていない。

 弓も罠もない。狩りも出来ず木の皮や毒があるかも分からない茸や果物を食べながら森を進み続け、この村を見つけたそうだ。

 あの独特な発音や、太い体格も蛮族だからか。氷の精霊を崇めているなら、火を操るシュトを悪魔呼ばわりしたことも納得がいく。

 シュトの姿が脳裏に浮かぶ。あの狂気に侵された蛮族たち相手に顔色を変えることなく対処していた。


 馴れているというか、外ではあんな危険なことが日常茶飯事なのだろうか。


 そしてタイカ。テシトに構わず、逃げた男を追った。見捨てられたかと思ったけど、シュトに目配せしていたような気もする。あんな短いやり取りで通じ合えたのか。




 数日後、捕らえた男が死亡した。衰弱死だった。


 飢餓の状態で大きな火傷を負った。尋問する為、意識のない間に最低限の治療はした。食事も用意した。しかし、食べなかった。意識が戻ってからは、消毒や包帯の交換などの治療も拒否した。

 タイカに相棒が殺された後、逃げ出してしまった自分を恥じているようだった。

 ふたりがどんな関係だったかは聞き出すことは出来なかった。

 村としては、他にも蛮族がいないかしばらく警戒していたが、襲ってくる様子もない。

 だが今後のことも考えて、夜は持ち回りで見張りを置くことに決めたらしい。

 その会合には、助言役としてタイカも参加していた。

 その為、テシトはタイカと話す機会が朝夕の食事時程度しかなくなってしまった。

 代わりに、兄と話す機会が増えた。兄も会合には参加している。当事者なのだから知りたいだろうと、男の顛末を教えてくれたのも兄だった。

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