第九話 かたる男
第一章 - 独白 -
奇妙なふたりだと、ヤムトは思った。
旅の同行者である。
少女と青年。
少女の名はシュトという。赤髪赤瞳。火の精霊の加護を受けている証だ。
《
南方諸王国の上流階級に何人かいるらしいが、この少女は違うだろう。精霊は人間の身分の貴賤など問わないだろうから。もし南方諸王国の出身だというなら逃亡奴隷か何かなのかもしれない。
そして青年の方。外見から青年といったが、老成した風でもある。
名はタイカ。長身である。ヤムト自身も背丈のある方だが、幾分かタイカの方が高い。黄色と黒の斑色の髪に、黒と黄色の左右で異なる色の瞳。
異貌といっていいだろう。顔立ちは整っているし、雰囲気も柔らかいので話していると気にならなくなるが、初めて見る子供などは怯えてしまうかもしれない。
ヤムトがそんなふたりを案内したのは、大森林でもやや北寄りにあると思われる、小さな村だった。
あると思われる、という曖昧な表現になるのはヤムトが大森林がどれ位大きいか分からず、ただ南方諸王国に近い森よりも明らかに寒冷であるという、その程度の理由だ。
数か月前に寄ったその村での取引は済んでいる。正直、商売の旨味はないが北へ向かうなら食糧の補給は必要だ。
そもそも北へ戻るなど考えもしなかったのだが、同行者が北行を求めている。
特に北のどこか、ということはない。北へ行きたいというよりは南から離れたい理由があることは何となく察していた。
それに同行してからは、森の中を旅する知識を幾らか授かった。
ある程度決まった順路なら大森林の中でも行き来するだけの経験を積んでいるヤムトだが、タイカの知識は広範で応用が利きそうなものも多い。強制された旅路であることを忘れて有難さを感じるほどだった。
森で採れる、乾燥させれば長持ちする薬草などは新しい商品にもなりそうだ。
そのような訳でヤムトは当初よりは、この旅を前向きに考えられるようになっていた。
そんなヤムトであったが、村での知人との会話で、気持ちが陰ってしまった。
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