第二章 - 昔々あるところに -

 昔々あるところに、心優しい農夫の青年が住んでいました。

 青年はある日、村の子供たちが白いいたちをいじめているのを見ました。

 鼬が可哀そうになった青年は子供たちを追い払い、鼬を助けてあげました。

 するとどうでしょう。鼬は青年に礼を言ってきたのです。

 青年はしゃべる鼬に驚きました。

 鼬は心優しい人だけに自分たちの声が聞こえるのだと言い、御礼に宮殿に招待したいと申し出ました。

 青年は、自分には年老いた母がいるからと断ります。

 鼬はならばと、青年の母親に宮殿から贈り物を持ってきて、青年が宮殿に来てくれるならもっと沢山の贈り物が出来ると青年の母親を説得します。

 母親の勧めで、青年は宮殿へ向かうことにしました。

 宮殿は、光で出来たように真っ白で、綺麗なお姫様が住んでいました。

 鼬をはお姫様の家来だったのです。

 お姫様は鼬を救ってくれたことに御礼を言い、青年をもてなします。

 沢山の料理に、聞いたことのない音楽。青年はすっかり虜になり、何日も宮殿に滞在しました。

 しかしやがて母親が心配になり、村に帰りたいとお姫様に訴えます。

 お姫様は青年に、もっと一緒にいたいと強請ねだります。

 美しいお姫様の願いに、ついつい長居をしてしまった青年ですが、母親のことが気になり、とうとう宮殿から逃げ出しました。

 村に戻った青年ですが、村の様子はすっかり変わっていました。

 青年が何日かだけだと思っていた宮殿での時間は、村では何十年と経っていたのです。

 青年の母親はとっくの昔に亡くなっていて、青年と母親の家も朽ち果てていました。

 村の誰もが青年のことを知らず、青年は独りぼっちになってしまいました。

 逃げ出した手前、宮殿にも戻れず、青年は村を去るのでした。




 何だろう、この救えない話は。

 シュトは何ともいえない気分になった。


「美味しい話には気をつけろ、てことですわ」


 とぼけた調子で締めるヤムトに、タイカが苦笑した。


「良いことをしたのに最後は救われない。青年が可哀そうですね」

「いやいや、もしかしたらそのいたちが何か悪さをして、子供たちに折檻されていたのかもしれない。考えなしの善意は却って始末が悪いということで」

「これは手厳しい」

「でも中々に教訓になる話ではありやせんか?」


 いかがでしょう、とヤムトが押してくる。満面の笑顔を浮かべている。

 実際には出していないが、手を差し出して報酬を求めているようにも見えた。

 タイカは溜息をついて、森に自生している幾つかの薬草について教えた。

 熱心に聞いていたヤムトだが、採取してから長持ちしないと聞くと露骨にがっかりした表情になった。

 商材として使えないと判断したのだろう。

 すました様子のタイカを見ていると、わざとそういった種類の薬草を教えたのではないか、という気になる。


「では、こんな話など」


 懲りない男だ。

 シュトは思わずヤムトを見返してしまった。

 タイカも止めない。

 先ほどの話も内容はともかく、ヤムトの語り口調は軽妙で話自体は聞き入ってしまった。

 ならば、次の話を聞いてもいいだろう。

 シュトは耳を傾けた。

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